#099「昭和換算」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部の三人。
「母親の写真を持って来いと言われたから、持って来たものの」
「何となく、気恥ずかしいよね」
「授業で使うとなると、変な写真を持ってくるわけにはいきませんからねぇ」
「あんまり良い写真がないんだよなぁ、これが」
「僕も、写真の数が少ないから困ったよ」
「でも、よく撮れてると思いますよ、二人とも」
「お世辞は結構だぞ、渡部。ダマスク・ローズの威力、恐るべし」
「そうだよ。どう見たって、渡部くんのお母さんが一番だよ」
「そんなことありませんよ。隣の芝は、青く見えるものです。山崎さんのお母さんのほうが若々しいですし、吉原さんのお母さんだって、円熟した魅力がありますよ」
「そりゃあ、俺を産んだとき、まだ母ちゃんは二十歳だったから。ヤンママもいいところだぜ」
「熟してるってことは、老けて見えるってことだよね?」
「こういうことを伺うのは失礼かもしれませんが、おいくつなんですか?」
「五十歳は超えてそうだな」
「とっくに超してるよ。東京タワーが完成した年に生まれたんだから」
「一九五八年ですね。四十歳を超えての初産ですか」
「高齢出産だったんだな」
「僕が生まれる三年ほど前に、一度、流産を経験してるんだ。その時は、ギリギリまで看護師の仕事を休めなかったらしくてね」
「そうだとしたら、二度目に無事、吉原さんが生まれて、喜んだことでしょう」
「人並み以上の苦労と、並々ならぬ決断をしてるもんな」
「当初は、嬉しかったと思うよ。でも、四十歳を過ぎて乳幼児の面倒を看るのは、体力がもたないって」
「子育ては、肉体労働ですからねぇ」
「話を少し戻すけどさ、渡部の母ちゃんは何歳なんだ?」
「三歳年上のお姉さんがいることを考慮すると、四十歳以下ってことは無さそうだけど」
「母が生まれたのは、アポロ十一号が、人類初の月面着陸に成功した年ですよ」
「ん? ということは、いくつなんだ?」
「一九六九年だよ。あとは、逆算したら分かるね、山崎くん」
「暗算は、お得意ですものね」
「頭の中で引き算してて、ある共通点に気付いたんだが」
「共通点?」
「何でしょう?」
「三人とも、ゾロ目だ」




