#000「世代交代」
舞台は、教室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、森の四人。
「おぅ、渡部。久し振り」
「お久し振りですね、山崎さん。今年度も、よろしくお願いします」
「こっちこそ、よろしくな。吉原は、まだか?」
「吉原くんなら、お手洗いですよ」
「そうか。久々に詰襟に袖を通したが、窮屈極まりないな。動きにくくて、しょうがない」
「自然と背筋が伸びますよね。ただ、肩が凝りますね」
「早いところ、脱ぎ捨てたいぜ。そうそう。今日からこのクラスに、新しい担任が来るらしい」
「その話なら、僕も小耳に挟んだところだよ、山崎くん」
「おぅ、吉原。しばらくだったな」
「戻りが遅かったですね。お手洗いは混んでましたか? それとも、体調が優れないのですか?」
「心配無用だよ、渡部くん。石鹸が切れてたから、保健室に取りに行ってただけだ。山崎くん、久し振り」
「律儀だな。風紀の仕事でもないってのに」
「はーい。席に着いてください」
「新しい担任のお出ましか」
「女性の先生ですね」
「それも、若い先生だね」
「今日から、皆さんの担任を受け持つことになりました、森百合子です。一年間、よろしくお願いします。それでは、出席を取ります。呼ばれた人は、手を挙げて返事をしてください」
「今度の担任は、しっかりしてそうだな」
「昨年度の先生は、お爺さんでしたからね」
「耄碌しすぎて、物忘れが酷かった」
「おまけに、物覚えも悪かったな」
「それに加えて、一度、勘違いされると、訂正するのに骨が折れました」
「それに比べると、今年度は当たりを引いたみたいだね。あっ、そろそろ僕らの番だよ」
「ヤマサキ孝志くん」
「先生。俺はヤマサキではなく、ヤマザキです」
「あら、ごめんなさい。ヤマザキ孝志くん」
「はい」
「ヨシワラ敏生くん」
「僕は、ヨシ、ハ、ラです」
「また、間違えたわね。ごめんなさい。ヨシハラ敏生くん」
「はい」
「ワタベ博巳くん」
「私の名前は、ワタナベです」
「いやだわ、あたしったら。ごめんなさいね。ワタナベ博巳くん」
「はい」
「最後に連続三アウトか」
「読み間違い易い名字ですからね」
「あらかじめ、名簿にフリガナを振っておけばいいものを」