浴衣の女神に「俺」を教える。
トラックに轢かれる。だから異世界に流れ着いた。
なかなかお洒落な書斎に俺はいる。だがこの部屋の持ち主は一切この部屋を利用していないようだ。両側にある本棚には何も入っていないし、重厚な机には地球儀が一つあるだけ。
「それはそうよ。なぜならここはちょっとした余興の場。トラックに轢かれた者がやってくる転生審問所だからね」
唐突なその言葉に振り返るとそこには浴衣を着た女がいた。そしてこの部屋には扉がない事に俺は気づいた。
転生審問所? 俺は口の中でその言葉を繰り返す。
「俺は死んだのか?」
そう言って俺は自分の体を見直す。どこにも怪我はない。パジャマを着ている。かなりスタイリッシュで渋いモノトーンのパジャマだ。
「死んでるようには見えないけど。あなた死んだの?」
「聞いてるのは俺だ。質問にだけ答えればいい」
「死んでないわよ。馬鹿ね。死んでたら死んだ人が行く場所に行くの。ここはさっきも言ったけど転生審問所。馬鹿ね。トラックに轢かれた者がやってくる転生審問所よ」
「だけどそれはおかしいぞ。死んでないのに転生するとはどういう了見だ」
「それこそおかしな考え方よ。死んだ事もないくせに転生がどういうものかなんであなたに言えるのよ」
「確かにそうだ。まあいい。それで? 俺はこれからどうなるんだ?」
「転生だって言ってるでしょ? 何度同じ事を言わせるのよ」
「どこに?」
「ここよ」
そう言ってその女は机の上の地球儀をぐるんと回す。ぐるぐると回る。
よくよく見ると俺の知っている地球儀とは地形が違うようだ。日本列島もアメリカ大陸もアジア大陸も何もない。
代わりに配置された大陸と海は一つも見覚えがなかった。
地球儀は勢いが衰える事なくずっとずっと回っている。ぐるぐる。
「さあ、そのダーツを投げなさい」
浴衣の女の指差す先、俺の手の中には一本のダーツがあった。
つまりこれを地球儀ではない地球儀に投げるとそこに転生するというわけだ。シンプルかつスタイリッシュで分かりやすい仕組みじゃないか。
「この地球儀の刺さった場所に俺は転生するんだな?」と俺は確認する。
「その通りよ。察しがいいわ。話が早くて助かるね。さあ! 覚悟はいいかしら!? 転生する覚悟は!」
「覚悟するのはお前の方だ!」
浴衣の女の呆気に取られた顔に向けて俺はダーツを投げつける。ダーツは真っ直ぐに書斎を横切り、浴衣の女の首に刺さった。
書斎の世界が崩れ落ちる。




