04
あれから一時間は経ったと思う。
図書室は未だに静けさを保ってる。
なんで図書室の先生は帰って来ないんだろう・・・。
それに、放課後といってもこの人の無さは異常だと思う・・・。
高校生にもなると忙しくなって本を読まなくなるのだろうか?
「はぁ・・・」
溜息を吐いたところで、この沈黙が破れたりはしない。
逆に空しくなるだけ。
「はぁ・・・」
それでも溜息がでるのは、多分、机の上にある数学のプリントの所為だろう。
一時間経ってもプリントの数は一向に減らない。
やっぱり、このプリント、枚数多すぎなんじゃ・・・。
これ、本当に今日中に終わるのかな。
『右の図の直方体で、辺BFとねじれの位置にある辺の数はいくつか。』
ねじれってなんだっけ・・・。
んー・・・なんか、以前吾沙那に教えてもらったような気が・・・。
んんー・・・確か、垂直でも平行でもない辺・・・だったよね?
うん、多分。そうだった気がする・・・。んじゃあ、これと、これと・・・これと・・・。
「よし。次は・・・、・・・うげっ・・連立方程式。しかも応用っ」
なんで図形(しかもそこそこ簡単な問題)の次に連立方程式の応用なんだろう。
これ作った人、相当頭がおかしいよ・・・っ。はぁ・・・なんて愚痴ってても仕方ないか。
えっとなになに・・・『1冊の値段が40円と60円のノートを合わせて・・・・・・・』
・・・・・・・・・・
「あぁぁもうっ無理無理っ無理ィっっっ!!」
恐ろしいほど頭が悪いオレが、こんなの分かるわけないじゃんっ!!
・・・なぁんて。
大声で叫んだところで、その叫び声に応えてくれる人なんて、
「どうかしたー?」
この、誰もいない図書室に、いるわけ・・・
「・・・だいじょーぶ?少年」
ない、と思ってた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・???」
その応えてくれた人は、オレと同い年くらいの、幼い顔つきで、けれど綺麗な容姿をした・・・、
「・・・こ、ここの生徒ですか・・・?」
「・・ん?なに言っちゃてんの。私服っしょ?僕は、図書室の先生だよう」
・・・図書室の先生でした。
てゆうかいつの間にいたんだ、この人っっ!?
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あの」
「んん?」
「つかぬ事をお伺いしますが、」
「うん、なにかな?」
「あなた、いくつですか?」
「えっと・・・今年で28」
ね、年齢詐称っっっ!!!!!?
「・・・も、もう一つ、宜しいでしょうか」
「うん、なにかな?」
「あの、性別のほうは、どちらなんでしょう?」
「え?可笑しなこと訊くねぇ。見れば分かるっしょ?」
見ても分かんないから訊いてるんですっっっ!!!
声に出して叫びたい衝動にかられたオレだけど、そこは抑えといた。
図書室の先生と名乗る、この・・・男性・・・もしくは女性は、とてもじゃないけど28とは思えない、童顔で、小柄で・・・少女めいた容姿をしていて、中学生と言われても不思議に思えない人だった。
女性なはずないよね?だって、だって、たしかこの学校、女性教諭いなかったはずだもん!!
男性だよね?だよね?だよね???
実を言いますと、オレは図書室の先生にあったことがないんです。
まあ、理由はたくさんあって、図書室をあまり使用しないことが一番の理由なのだろうけど。
ぶっちゃけ、名前すら知らない。
「あれれ、これ数学のプリント?あぁ居残りくんかぁ〜。大変だねぃ。しかもこんなに沢山・・・これはもはやイジメ的な量だねぇ。ってイジメ的ってなんだって話だけど。笑い笑い。もしかして君あれ?嫌われ者?イジメられっこ?いやぁ、先生にまでイジメられちゃって・・・大変だねぃ」
グサリ、とくる言葉を、歌を歌うかのようにすらすら言われ、オレは胃が痛くなるのを感じた。この人、可愛い外見に似合わず、ズバズバ言う人だな。
てゆうか、
「べ、べつにイジメられてなんか・・・」
「そうか、一生懸命に『僕、イジメられてるんです』って先生や親に助けを求めても相手にされず、邪見に扱われ、もう全てどうでも良いや、と思うようになっちゃって最後に自殺しちゃうタイプなんだ、君」
「いやいやいやいや・・・、全然そんなタイプじゃないですからっ・・・話をややこしくしないで下さいっっ」
「あ、でも死ぬんなら学校の屋上で飛び降りとか止めてよ?少子化が進んでいるこのご時世、高校で生徒が自殺、そんな記事載せられて生徒数減っちゃったらどうしてくれるの?」
「自殺しませんからっ!てゆうかそこ心配するところ違うと思います!普通止めません?『生きていれば良いことあるよ』とかなんとかクサイ台詞言って、普通止めません?あなた仮にも教師でしょ?」
「違うよ、図書室の先生だよう。つーか今時そうゆうこと言ってもやめないでしょ?死にたい奴は死なせてあげればいい。僕には関係ないしね。だからとめないよう。応援したげる。あ、でも学校では死なないでね?」
な、なんてことをサラリとゆう人なんだっ!!
「教師失格っ!!てゆうか人間失格っ!!」
「だあーかあーらあー。図書室の先生なんだって」
「同じでしょっ!!?」
「同じなのっっ!!?」
この人は容姿だけじゃなく精神までも幼いのだろうか・・・。
胃の次は頭が痛くなってきた・・・。いかんいかん、数学のやりすぎだ。
しかも喉も痛い・・・。こんなに大声だしたの初めな気がする・・・。
ほんと、つかれた。帰りたい。
「まあ、良いや。自殺志願の少年」
「自殺は志願していない少年です」
「名前は?」
かなりスルーされた。
「名前は?」
「ま、・・・松岡志乃です、けど・・・」
「松岡・・・?」
名前を言った瞬間、眉を顰められ、オレはちょっと不安になる。
もしかしてオレ、本当に嫌われ者だったりするのかな・・・?
「ねぇ」
「あ、はいっ」
「もしかして、松岡吾沙那のお兄ちゃん?」
まだ眉を顰めている先生が、感情のこもってない声で訊いてきたので、オレは緊張しながら静かに頷いた。
「ふうん」
つまらなさそうな声。
オレ、やっぱり嫌われ者・・・?
嫌な沈黙が流れだす。
その沈黙を耐えることなんて、オレにはできない。
「あの、先生のお名前を訊いても、宜しいでしょうか?」
「ん?あぁ、僕の名前?・・相良だよ、相良葵」
驚いた。先生は柔らかく微笑みながら応えてくれたから。
さがら、あおい先生?葵でも、男の人で葵っているよね?ね?
「あの、先生っておとこ」
ですよね。そう訊こうとした時。
ガシャンッ・・・ッ・・
突然、扉が開かれた。それも乱暴な音をたてながら。
オレは吃驚して、扉に顔を向ける。
先生も同じように、けれどオレとは違ってあまり吃驚してないように、扉を見た。
「ちょっとぉ。扉壊さないでねぇ。つうか遅すぎだよう、お前」
「うっせえっ!人に物頼んどいてその態度はなんだっ!?」
低いトーンのどなり声が図書室中に響く。
オレは自分が怒鳴られてるわけでもないのに気を抜けば泣きそうな状態になっていた。
「ああーもう、怒鳴るなバカたれ」
相良先生は不快な顔をするだけで、恐がっている様子はなかったけど。
図書室に、舌うちをしながら入ってきたその人は。
大きなダンボール箱を両腕に抱えていて、よく顔が伺えない。
背丈や体格から考えて、たぶん先輩だとは思う。
「あ、奥の方の机に置いといてねー」
「だあーもうー・・・ッ、てめえは人を扱き使い過ぎだっ!!」
その人は文句を言いながらも先生の指示に従って、奥の方にある机の上に、今度はドスンッと音を立てながらダンボール箱を置いた。
「ちょっと、乱暴だよっ!!」
「お前は人使い荒すぎっ!!」
怒鳴りながら振り向いた、その人は、・・・
同じ男のオレですら思わず見惚れてしまうほど、綺麗に整った顔立ちをした人でした。
勇人とはまた違う感じの格好良い人だな。身長も高いし、もしやモデル?
てゆうか、なんでですか?
なんで、世の中にはこうも顔立ちがきれいな人とわるい人がいるんですか?
なんで、オレの周りにはこうも顔立ちがきれいな人が多いんですか?
こんなのイジメだっっ!!
ドキドキする心臓とは反対に、頭ん中はムカムカしていて、ちょっと驚いた。