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03

今日は午後から物凄く快晴で、雲ひとつない青空が広がっていた。

オレの席は窓側で一番後ろ。温かい日差しが直に降りかかる。

その日差しがあったかくてあったかくて、オレの瞼は次第に下がっていき、オレは知らない間に眠ってしまっていた。




「松岡、放課後居残れ」

居眠りをしていたことが先生にバレ、職員室に呼ばれたオレは、罰として居残りをしろと言われた。

面倒くさい。物凄く面倒くさい。しかも運悪く数学だし。オレってなんでこんなについてないんだろう。

「このプリントやって、俺に提出したら部活行って良し。分かったな?」

そういって渡されたプリントの数は予想を遥かに超えた多さで、オレは顔を渋らせた。

どうみても軽く20枚くらいはあるよな・・・こんなの絶対むりだよ。今日までになんて絶対むり。

「先生、プリント多い気が・・・」

そう(小さい声でだったけど)反論してみたもののその反論はすぐに無意味になった。

「安心しろ、中学三年生レベルのプリントだ」

どこらへんに安心要素があるんでしょうか・・・。先生、オレが凄く頭悪いの忘れてません?

特に数学はほんとダメなんですよ、知ってるでしょう・・・!!

「俺ってなんてやさしいんだろうなぁー」

いや、先生。先生が本当に優しかったのならこんなにプリント出さないと思うんですが。しかも絶対部活なんかいけない、奇跡的にプリントすべて終わらせても、その頃には絶対部活終わってるって。せめて、4,5枚で許してほしかった・・・。意地悪!!鬼ー!!

・・・なぁんて、いくら心で叫んでも所詮心の声、先生に届くはずもなく。

先生は「まぁ、頑張れ」と言いながらオレから視線を外し、机に置いてあった書類に目を通し始めた。

オレは納得いかない顔をしながらも「失礼しました」と言い、沢山のプリントを腕に抱えたまま職員室を後にした。職員室から出てすぐ、溜息をつく。

腕の中にある冷たい数学のプリント、そのプリントを見て、また溜息。

居眠りしていたのは自分だし、天気がどうとか席がどうとか言っても、結局悪いのはオレなんだ。居残りなんて自業自得。しょうがない。どうせ暇だし。でもやっぱりこの量は酷い、居残り自体は良いんだけど、この量は・・・、今日帰れるのかなぁ、オレ・・・。


・・・って、

放課後・・吾沙那たちと一緒に帰る約束してたの、忘れてた。

心なしか、プリントが先ほどよりも重く感じられた。




『んで、今日はキャンセルすると』

電話越しから聞こえる、あからさまに機嫌が悪そうな声。

久々に吾沙那のこーゆー声聞いた気がする。

「ぅん・・・ほんとごめん」

『なんで居眠りするかなぁ・・・』

「・・・て、天気が良すぎて」

『てゆうか、放課後のこと忘れてたでしょ?だから先生に言われるがままになってたんでしょ?居残りは嫌だけど、まぁ暇だし良っかな。なんて思ったりしたんでしょ?』

図星だった。吾沙那はいつからテレパシーを覚えたのやら。

「ごめん・・・」

さっきから謝ることしかできない・・・オレって本当ダメな奴。

『・・・僕、手伝いに行ってあげようか?』

「ううん、大丈夫。オレ一人で出来る量だから」

嘘です。出来る量範囲を軽く超えてます。ぶっちゃけ今日帰れるのかも怪しいぐらいです。


「今日は二人で行って。オレはまた今度で良いから」

二人で行って、か・・・。

本音を言うと、吾沙那と勇人が二人っきりで何処かに行くのは嫌だ。

あの二人は特別仲が良いから。クラスが一緒の上、放課後も二人っきりなんてさ、勇人に恋してるオレとしては正直キツい。キツいけど、キツいんだけど、しょうがない。自分が悪いんだ。

もっと明るく可愛げがあったなら、先生に好かれるような生徒だったなら・・・松岡吾沙那のような生徒だったなら、居残りなんてさせられなかったのだろうか。例え居残りさせられても、少なくともこんな沢山の量のプリントは渡されなかっただろう。

そう、全部オレ自身が悪いんだ。これは自業自得。

『志乃ちゃんとも行きたかったのになぁ』

ふいに発せられたその声は、つまらない、と言って拗ねてるようだった。

さっきまでの不機嫌な声はどこへやら。オレは思わず苦笑いをしてしまった。

兄のオレより遥かに出来の良い弟は、時々、オレの前だけ子供になってしまう。

だから、だからオレは弟を憎めないし嫌いにもなれない。


「また今度、ね?勇人にもそう言っといて」

『うー、分かった。二人で行く。勇ちゃんにも言っとく』

「よしよし、んじゃあ、気をつけて」

『あいよー』

プツン、・・・

電話を切ったとたん沈黙がこの場所に降りてきた。



話は数分前に遡り。


放課後、オレは教室でプリントをしようとしていたんだけど、オレたち一年生の教室は音楽室から近く、吹奏楽の練習している音が直に聞こえ、しょうがなく場所を移動し、ここ『図書室』で勉強することにした。

放課後といっても、帰宅部や文化部が来てるものだと思っていたのに、図書室にはだれもおらず、今もオレ一人だけの状態。静かに勉強できるから、まぁこっちの方が良いのかもしれないけど。やっぱりこれはこれでなんか嫌だなぁ。しかも先生までいないという。

もしかして今日はもう閉館だったりして、と思ってみたものの看板は『開館』と書かれた方が表になっていたのでその心配はなかった。アレだ、今なんかの用事でいないんだ、先生は。

「すぐ戻ってくるよ」

独り言は沈黙に呑まれ、すぐ何も聞こえなくなった。

怖くはないけど、心細い。無償に誰かの声が聞きたくなり、無意識に携帯へと手が伸びた。

「・・・あっ」

その瞬間、思い出した。

吾沙那に「今日行けなくなった」と言ってなかったことを。

オレは慌てて吾沙那に電話をし、そのことを伝え・・・そして今の状況にある。


図書室の大きな机に置かれた数多なプリント。

どうみてもいじめとしか思えない。無意識にため息がでた。

これで今日何度目だろう。ついてないなぁ・・・。

「あぁーもう!とりあえずやろう、やれば終わる!・・・はず」

不貞腐れながらもシャーペンを手に持ち、プリントと向き合った。

中学三年生レベル、か・・・。

できれば中学一年生レベルのプリントにしてほしかったな・・・。

「これ本当に終わるのかなー・・・」

呟いた独り言に、反応する人は誰もおらず、オレは沈黙を少しでも破るため大げさなほど深いため息を吐いてみた。


『溜息付くと、幸せが逃げるよ』

昔、吾沙那に言われた言葉が頭に浮かぶ。

・・・・でもね、吾沙那。オレはため息付かなくっても、幸せは逃げて行くんだよ。

頭の中で微笑んでいる吾沙那に向かって、苦笑しながら愚痴ってみた。

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