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02

永瀬勇人というのは、明るく気さくなムードメーカー的存在の青年でサッカー部に所属。

身長は高一にしてはやや高め。顔が綺麗に整っていて、ここが男子校だというのに勇人は凄いモテている。

そんな勇人とオレたちが出会ったのは、小学二年の時。

勇人がオレたちの学校に転校してきたのだ。

社交的で明るい人気者の吾沙那はすぐに勇人と打ち解け仲良くなっていたんだけど、内気で地味なオレは勇人に話かけるどころか近づきもできなかった。

けど、勇人が転校してきて二週間ぐらい経ったとき、クラスで席替えが行われ、オレは勇人と隣の席になり、それから少しずつだけど彼と話せるようになった。そのころのオレには本当に友達が一人もいなくて、勇人が友達になってくれたことが凄くうれしかった。あんなに憂鬱だった学校がとても楽しく感じられ、そう感じられたほど「永瀬勇人」という存在は大きかったのだ。


吾沙那、勇人、そしてオレの三人は小学二年の時からずーと仲がよく。

高校生になった今でもその関係は変わっていない。

オレは勇人に恋しちゃったけど、告白するつもりも、恋人になりたいと思う気持ちもない。

今の関係を壊したくなく、勇人に気持ち悪がられたくもない。

今の関係のままでいたい。ずっと、ずっと。ずっと三人一緒。


なんでオレ、勇人への気持ち、気づいちゃったんだろう。

気づかなかったら、もう少し楽だったのかなぁ。

なんでだっけ。んー・・・と。あぁ・・・そうだ。

昔、誰かにどっかの倉庫に閉じ込められて、それを勇人が助けてくれたんだっけ、・・・それから、だよね?オレが勇人を気にするようになったのわ。

今思えば物凄く単純なことで好きになっちゃたなー。




「志乃〜!」

「はっはい!!」

突然名前を呼ばれ、オレはどもりながら声がした方へ振り返った。

そこにいたのは、先ほどまで頭に浮かんでいた人、勇人だった。

いんや、振り返らなくてもわかってたはずだ。オレを名前で呼ぶのなんて家族以外、勇人しかいないし。

「どうか、した?」

「いやなぁ、俺数学忘れちまって。貸してくんないかな?」

「ん、良いよ」

すぐ引出しから数学を取り出し、勇人に渡す。

オレはオキベン主義だから教科書は全部学校にあったりする。

「おぉ、さんきゅー!助かった」

ニカッと笑いながらお礼を言ってくる勇人を、まるで太陽でも見ているかのように目を細めて見つめた。オレと勇人はクラスが違う。勇人と吾沙那は同じなんだけど。だからよく、何か忘れたときオレのところに来る。高校に入ってから、部活やら勉強やらで会う機会少なくなった今、この時間はかなり貴重だ。

「んじゃぁ、次の時間返しに来るから」

「今日は数学ないし、昼休みでも良いよ?」

「昼休み、俺があいてないんだ。だから次の時間」

「そっか、わかった」

オレが頷くと、勇人は「じゃあな」と手を軽く振って自分の教室へと帰って行った。

その後ろ姿を名残惜しそうに見つめる。


あの背中に手が届いたなら・・・

オレは小さくなっていく勇人の背中へ、無意識に手を伸ばした。

伸ばしてすぐ引っ込める。チャイムが鳴ったからだ。





「志乃ちゃん」

授業が終わって数分後、オレは勇人を今か今かと待っていた。

待っていたんだけど、あらわれたのは勇人じゃなく、

「・・・・あ、さな?」

出来のいい弟、吾沙那だった。

・・・って、・・・え、えぇ?なんで?なんで吾沙那ぁぁ!!!?

混乱している頭とは裏腹に表情は至って冷静、のはずなオレは吾沙那の方へ近づき「どうしたの?」と首をかしげてみた。

吾沙那はいつものように柔らかく微笑みながら、数学の教科書をオレに差し出してきた。

「勇ちゃんから預かりもの」

「・・・教科書」

「勇ちゃん、先生に頼まれごとされちゃってさ」

「あぁ、だから吾沙那が持ってきてくれたんだ」

「そ、」

「ありがとう」そう呟きながら、差し出された教科書を手に取る。

吾沙那はまだ柔らかく微笑んでいた。

なんでそんなに微笑んでいられるんだろう。時々本気で不思議になる。

「あ、吾沙那久し振りぃー」

「おぉー、お久〜」

吾沙那に気づいたクラスメイトが機嫌よく声をかけてきた。吾沙那もそれに笑顔で応える。

弟は本当に人気者で、どのクラスにいっても必ず声を掛けられる。オレなんか教室に入ってもだれ一人見向きもしないのに。やっぱ吾沙那は凄いよなぁ。そういえば、さっきの人、入学式の時「なんで兄の方なんだぁ?最悪だし、吾沙那が良い!」なんて愚痴っていたのを聞いたな。それにあんまり良い印象や噂は聞かない。オレは、この人とそんなに仲良くするなよ、と吾沙那に目でゆっておいた。けれど、兄弟だからといって、目と目で会話なんかでいるはずもなく、吾沙那は「なに?」と言いたげに首をかしげオレを見上げた。んー・・・吾沙那が首をかしげるとなんか絵になるんだよなぁ。

オレが何でもないと首を振ろうとしたとき、吾沙那が思い出したように声をあげた。

「あっ!!そうそう、志乃ちゃんメールみた?」

「・・・めーる?」

「見てないんだね」

やっぱしかぁと肩を落とす彼を、目をパチクリさせて見つめた。

オレは出来が悪いけど至って真面目で、学校では携帯の電源をオフにしている。

だから、メールがきても気づかない。

オレが疑問符をまき散らしていることに気づいた吾沙那は、

「放課後までにはちゃんと見てね?」

と言いながら屈託なく笑い、踵を返して教室から出て行った。

オレは彼が出て行ったのを見届けてから自分の席に戻り、カバンに入っている携帯を探し取り出し、そして電源をオンにした。


『着信:1件』


あ、本当にきてる。授業がもうすぐ始りそうだけど、今読まないと忘れん坊のオレはこのことを忘れてしまうだろう。忘れて読まなかったら吾沙那に怒られる。

オレは徐にメールを開いた。送信者は当たり前にわが弟。


『今日、放課後久々に三人で帰ろう?実は美味しいお店見つけたのだ!勇ちゃんはもう誘っててOKだって。志乃ちゃんも良いよね?大丈夫だよね?返事待ってまぁす』


おいおいおい・・・、放課後って。


『確か今日部活あったよね?』


休んじゃさすがにやばいっしょ。それともサッカー部と調理部、今日無いのかな。

メールはすぐ帰ってきた。吾沙那はメールを打つのが早い。ほんと、なんでもよく出来るよなぁ。感心感心。


『だいじょーぶ!一日ぐらいさぼったって平気だよ♪』


こら。

一応オレらは一年生なんだからな!それに、吾沙那は気に入られてるから良いけどオレはそうでもないからさぼったって分かったら、嫌味言われるかもしれないんだよ・・・!?勇人なんかサッカー部だし、やっぱ部活さぼるのは・・・。

オレが悩んでいると、また携帯が鳴る。吾沙那からかと思って見てみたら、勇人だった。


『サッカー部は顧問が今日いなくて、日曜する代わりに今日は休みなんだよ。美術部はやっぱ休めないか?美術部結構来てない奴多いだろ?それなら一日くらい志乃が休んだって平気だって』


サッカー部は休みなんだ。んー・・・確かに美術部幽霊部員多いし、顧問の先生だって時々しか来ないし、部室行っても部長と副部長ぐらいしかいないときもあるけど・・・。

てゆうかあの部活、よく廃部しないなぁ。部員のオレがゆうのはなんだけど。

それによくよく考えたら嫌味なんかゆう人はいないか。一日オレがいないからってどうなるってわけでもないし・・・。

・・・よしっ。


オレはチャイムが鳴ると同時に、『わかった、行くよ』とメールを出しておいた。


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