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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
大きくなった騎士と彼女とその家族のおはなし
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69 竜王との再会

 昼頃には雪を見なくなり、遥か地上に人がいるのが見えたが、竜が見えているのかどうなのかは、判断できない程に小さくて分からなかった。ずっとずっと飛び続けて…とうとう一面、海しか見えなくなり、さらには美しい夕日が沈み始めた頃だった。


 海上に突如、小さな塔のようなものが見え、近づいてくるにつれてそれが高く聳え立つ山々に囲まれた巨大な島だというのが分かる。かなり高い所を飛んでいるが、あの壁のような山を越えるにはもっと高度を上げねばならない。


「ロゼ、また後で会おうなー!」

『ピィィィィィ!』


 大輝の大きな声にロゼリオが鳴き声を上げて離れ、山腹へと降りていくのが見える。この山は魔獣は飛んでは超えられないのだ。歩いて山を越えなければならない。ロゼリオは強く、足も速いからしばらくすれば合流できるだろう。


 黒い竜はぐんと、さらに高度を上げる。

 乗っている二人は、ここにきて初めて風のようなものをわずかに感じた。陣が脆くなるほど厳しい環境ということなのだろう。美雨はアルフレドの手をぎゅっと握り、そんな彼女を安心させるようにアルフレドは握り返して頭から抱え込んでやる。


 やがて、上昇が止み、そっと眼下を覗いて見て…二人は息を呑んだ。


「これが…竜王の里なの」

「ああ、とても美しいな…」


 黒い竜の背中から見える、雲下には生命力に溢れた緑。その間を走るように大きな川が流れている。その源泉は、険しく聳え立つ山々の雪解け水なのだろう。所々、滝が流れ落ちているのが目に入る。それらの滝には夕日が反射して小さな虹がかかっていた。


「やったね! 初めて来たけど、上手く超えられた」


 黒い竜の嬉しそうな声も聞こえる。


「よっし。じゃあ下降しよう。竜王の気配が濃厚だから、そこに飛ぶよー」


 美雨には気配は分からない。でも、竜であり息子である大輝が言うのなら間違いないのだろう。


 長い空の旅の目的地に着いたのだ。



***


 黒い竜が降り立ったのは、背の高い草がそよぐ、森の間にぽっかりと空いた平地だった。

 そこに一匹の竜が立って待っていた。

 輝くウロコが夕日に反射していて、最初は知らない竜かと思って緊張したが、地面に降り立って見れば、なんのことはない。竜王だった。


「竜王さーん! 久しぶり」

「美雨、変わりはなかったか」

 

 黒い竜から一番に降り立った美雨が白銀の竜王の元へと駆け寄った。

 竜王は嬉しそうに春色の緑色の瞳を細め、満足げな息を吐きだした。


「久しぶりだな、竜王殿」

「ああ。アルフも変わりなさそうだな」


 荷物を担いで背から降りてきたアルフレドに視線を向け、竜王は嬉しそうに声をかけた。


「ああ、大輝、私が紐を解いてやろう」

「あ、大丈夫。このまま転位を解くから」


 黒い竜の姿が揺らぎ、収束するとそこにはいつもの大魔法使いが現れる。黒い髪の毛は相変わらずのねこっ毛でふわふわしており、とてもあの固いウロコを有する生き物には見えない。身長だって、アルフレドと並べば頭一個分程も違うというのに、あんなに大きくなるのだから不思議なものだ。


 ゴロンと転がったソリを残念そうに見つめる竜王。彼は世話を焼きたくてたまらないのだ。それを大輝も分かってはいたのだろう。しかし、解いてしまうとまた取り付けるのが面倒だ。


「ええっと、また、機会があったらお願いしよっかな」

「ああ。遠慮せずにいつでも申すがいい」


 大輝の取って付けたような言葉に竜王はとても嬉しそうに笑ったのだった。


「そういえば、他の竜たちが見えないが…もしかして、あまり歓迎はされていないのだろうか」


 アルフレドが少し申し訳なさそうな顔をする。竜たちにとって美雨と大輝はやっと帰ってきた家族だ。だが、自分は違う。ただの人間、しかも事件を起こした人間たちと同じく魔獣に乗る者だ。


「何をバカなことを言っている。お前はもう私の息子だろうに」


 白銀の竜王は、困ったようにその大きな瞳を瞬かせた。


「皆は総出で、宴の準備をしていてな。あまり張り切りすぎるなと言ったのに…」


 話を聞くと、竜王が帰ってきて大喜びをした竜たちは宴を開いたそうだ。そしてその席で失われた卵が帰ってきたこと。さらには一つは殻が割れて、無事に竜になっていたことを知らされ、とてもとても喜んだのだという。


「そこまでなら良かったのだが、訪れるのがいつになるのか分からんと言っているのに、その日からずーーーーーーーーっと。宴の準備をしていてな」


 白銀の竜は、長い、長い、長---い溜息をひとつついた。


「毎日ずっと宴状態でな。私はちょっと、もう…胸やけが…」


 先ほどの竜王の喜びようは、親子の再会はもちろんあるのだろうが、それと同じくらい、この終わることのない宴会からの解放に喜んでいたのだ。


「さあ、行こう。もう少し進んで森を抜け、山の間に私の…私たちの家がある」


 少し照れくさそうに竜王は言い、そっと背中を向ける。乗れということなのだろうか。しかし、どうやって…と思っていると美雨の体がひょい、と宙に浮く。


「え? 何何? あ、大輝…」


 大輝が竜に変位し、美雨を摘み上げて竜王の背に乗せた。アルフレドも同様に摘み上げる。最後にバサリと飛び上がり、竜王の背で転位を解いて人の姿を取った。


「ふふ、大輝も竜なんだから飛んでいけるのに」

 

 美雨がからかうと、大輝は少し赤い顔をして目線を逸らした。


「…さんざん飛んだから、ちょっとだけ疲れてるんだよ」


 それは本当かもしれないが、照れ隠しだろう。アルフレドが笑みを零したのを見て大輝は益々そっぽを向き、そんな三人を乗せて白銀の竜王はゆっくりと飛び立ったのだった。


 


その頃のロゼリオは、雪を蹴ったり、掘ったり、ゴン! と木にぶつかったり。崖から転げ落ちても飛べるのでへっちゃらなのです。一人楽しく険しい山越えをしています。



次話、おかえりなさい。

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