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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
大きくなった騎士と彼女とその家族のおはなし
61/81

60 魔法使いではなかった頃のおはなし

***


 高校の制服であるブレザーのままで、大輝は馴染みのある空間に居た。

 青く光る場所でふわふわと浮いている。

 幼い頃からたびたび来てしまう不思議な場所だ。

 

 光の道があちらこちらに、いくつも続く。大体は歩いていけそうな太さがあるが、消えそうに弱かったり、なんだか嫌な感じがするものもある。


 幼い頃からここに迷いこんできてしまうと、一際大きく輝く光の道が見える。

 その光は強すぎてなんだか直視してはいけないような、そんな気がするからいつも見ないふりをする。

 道を渡ってみたい。幼い時はそんな気分になる時もあったが、そういう時は姉の声が聞こえて気が付くと手を引かれていたから結局どの道も選ぶことはなかった。


「久しぶりに来たなー、ここ。相変わらずギラッギラしてんなー」


 一際眩しい光の道に目を細める。

 この道の先に何かがあるのは分かるが、確かめようとは、もう思わなかった。

 渡ってしまえば戻ってこれないのが本能的に感じられたし、母も亡くなった今、姉を一人にしておくには心配だった。


 どの道も選ぶつもりはなかったが、端のぎりぎりまで寄って色々な光を見るのが好きだった。


 その中でも、幅が広いのに今にも消えそうな儚い光を見つけて近寄る。


 祖母が生きていた頃は近くの小川に蛍がたくさんいて、光るとまるで光の洪水のようだった。今はだいぶ減ってしまって儚い光があちらこちらに浮遊するだけだ。


 その寂しげな風景と重ねたのかもしれない。


 この空間だと常に浮いているのだが、彼は行きたい方向を頭に浮かべればすっと移動できた。


「なんだ、お前。随分と元気ねーな。こんなに立派な道幅なんだから。ほら、元気出せって」


 大輝が軽く指先で突くと、光は喜ぶように呼応して光った。


 見つけてくれて嬉しいと、光がざわめいているようだった。


 母の葬儀の後、沈みがちな姉と二人きりの我が家と学校の往復に少し疲れていた大輝の心はおおいに慰められた。


「本当は、もっと光れるんじゃね? オレがもっと遊んでやろっか」


 大輝が冗談半分に言葉を発した瞬間。後方から突然、強い風が起きて体が前に押し出された。

 馴染んだ空間で、そんな目にあったのは初めてだった。

 あっという間にその儚い光の道へと押し込まれたのだ。


 高島大輝、十七歳の下校途中のことだった。


 次に彼が目を覚ますと、見知らぬ森に居た。

 よく状況が分からないまま、とりあえず下山をしようと山をうろうろしていると熊のような巨大な生き物に遭遇した。真っ黒の闇がうねっているような、血のように真っ赤な瞳が四つある生き物だった。


「うっわ。うっわ、これは、絶対にダメなやつじゃーん!!!」


 大輝はくるりと回れ右をして逃げ出し、あわやという所をルンゲ師に依頼されて様子を見に来ていた第二騎士団に命を救われたのだという。


 当時の第二騎士団団長ドナート・ヴェストレムは刀の一振りで魔物を払い、疲れ切って動けない大輝を見て面倒くさそうに溜息を吐き、部下の魔獣に乗せさせた。そして、調査を依頼した張本人である、時空の塔の大魔法使いユリアーヌ・ルンゲの元へと運ぶよう指示をした。


 大輝を見たルンゲは珍しく驚いていたが、数分後にはいつも通り飄々としたつかめない老人に戻っていたという。

 騎士たちに高い塔の最上階にある、自室とは名ばかりのガラクタ部屋にあるソファへと大輝を運ばせたのだ。


 起きたらゴミ屋敷かと思った大輝は、嬉しそうなルンゲに言われたのだ。


「卵よ、どうしてこちらへ落ちてきたのじゃ?」

「は…?」


 当然だが、大輝には言ってる意味が全く分からなかった。

 何言ってんだこのじじい。と思った程には。


「この殻の下に眠る、禍々しいほどの魔力。それにお主の髪の色…こんな完全な闇色なんて初めて見たぞい。まず、この世界の人間にはあり得ない。しかし、この世界はお主が落ちてきたときに歓喜に震えたなあ…」


 思案するかのように白いあごひげを撫でる、いきなり現れた命の恩人らしい老人の言葉に頭痛がするのを感じたのを、大輝は今もはっきりと覚えている。


 その後も意味不明なことを言い続ける彼の言葉と推理を拾い集めて、大輝は愕然とした。


 オレと姉は、十七年前にこの世界で初めて生まれ、すぐに消えてしまった、人間と竜の間に誕生した卵…子どもらしい。

 そして、界渡りの魔法を覚えなければ元の世界へ戻ることもできないという。

 さらに言うと、界渡りの魔法は禁術なので、他の魔法を使いこなせるようにならないと教えられないとニヤニヤと笑うルンゲに言われた。


 とても不本意ながら、ルンゲを師と呼び魔法を師事してもらうことになってしまった。

 そうと決まると早くて、ルンゲは最近お気に入りという金髪に深い菫色の美少年騎士見習いに会わせてくれた。

 

 驚いたように自分を観察する騎士見習い。オレは珍獣じゃないぞという言葉をぐっと飲み込んだ。黒髪黒目は本当に珍しいらしい。


「まじまじと見てしまって、すまない。あまりにも珍しかったものだから」


 まじまじと観察していたくせに、不愉快そうな視線に気づいたのか、騎士見習いは謝ってきたので少し溜飲が下がった。もしかしたら、いいやつなのかもしれない。


「オレの名前はアルフレド・フリクセルだ、大魔法使いの弟子殿」

「…オレの名前は、たか…ダイキだ」


 ルンゲに言われた言葉を思い出して苗字を名乗るのをやめる。異世界からやってきたことを言ってはならないと。


「そうか、私のことはアルフとでも呼んでくれ」

「…オレはダイキでいい。アルフレド」


 どうせ、魔法を覚えたらすぐに帰る世界だ。深入りをしたくはなかった。

 それに、なんか言われたままに愛称で呼ぶのも癪だった。

 早く、帰らないと。あれから何日が経ったと思ってる? 姉ちゃん泣き虫だからきっと泣いている。


***


「…そんな理由で長ったらしい名前をお前はいちいち呼んでいたのか、ダイキ」


 アルフレドが呆れたように首を振った。


「まさか六年も居るようになるなんてそん時は思ってなかったし」


 大輝は苦笑いを返し、またゆっくりと話し始めた。

騎士見習いをしていたアルフレドはただの美少年だったようです。


次話、少年は幼い王に出会います。

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