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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
大きくなった騎士と彼女とその家族のおはなし
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40 空を翔ける友と彼女

 クロードが書類とにらめっこを始めたので、アルフレドと美雨はそっと退出した。大輝は残るらしく、軽く手を振ってくれた。


 扉を守る騎士にお疲れ様と美雨が恐る恐る声をかけると、彼らは驚いたように目を見開いて背筋を伸ばして敬礼を返す。


 長い廊下を二人で抜けると、庭園へと出てきた。

 全然人の気配のない、薔薇が美しい長い生垣を抜けると噴水があった。そこにアルフレドが腰かけ、キャリーバッグを下ろしたので美雨も隣に座った。

 さっきは気付かなかったが、彼の腰にはあの小さくなったままだった騎士の剣が元の大きさでしっかりと下がっていて嬉しかった。


「ミュウ、やっと二人になれたな」

「そうだね、アルフ。久しぶりだけど、大丈夫だった? カゼとか引かなかった?」

「いいや。体調は特に問題ないのだが……」


 一旦、言葉を切って美雨の手を引く。引かれた美雨の体は当然傾き、アルフレドの胸の中に落ち着く。綺麗な紺色の軍服はお日様のようないい香りがする。


「ミュウ不足が深刻で、少し参っていた。あのバカは書類を大量に溜め込んでいたしな……」

「ああ……やっぱりアルフ頼みだったんだね、大輝……」


 抱きしめられている美雨は身じろぎ、両手をアルフレドの背中に回し、ぎゅっと抱きしめ返してから綺麗な金髪へと手を伸ばした。手触りの良い髪の毛の感触を楽しみながらゆっくりと頭を撫でていると、アルフレドが深い息をひとつついた。


「ミュウ、本当に来てくれてありがとう。たかだかひと月がこんなに長いとは思わなかった」

「私も。でも、これからはずっと一緒に居られるね」


 美雨の言葉にアルフレドが優しく微笑み、美雨もそれに応えて微笑もうとしたその時……大きな羽音がした。


「え? 今の、何の音?」

「ああ。オレの魔獣であり、友のことは話しただろう? ミュウのことを早く紹介しろとうるさかったが、我慢できずに来てしまったようだな」


 庭師のじいさんがまたカンカンになるなと、アルフレドは苦笑いをして立ち上がり、空に向かって大きな声で叫ぶ。


「ロゼ! こっちに下りてこい!」

 

 その声に呼応するかのように『ぴぃぃぃぃ!』と高く鋭い鳥の声が聞こえる。


 美雨は空を見渡して、見逃さないように必死に探す。

 昼間の大きな太陽の中に、小さな影が見えた。

 それはグングンと大きくなり、鳥のような形になる。

 さらに近づくと、その異形の姿が明らかになる。

 

 頭は白鷲。翼と胴体は黒い羽毛に覆われていて、下脚は筋肉質な白獅子の生き物が、体の重さを全く感じさせない動きで空を翔けてくる。


 その美しい姿に美雨は見惚れ、一瞬呼吸を忘れた。


 速度を落とした魔獣は、その翼を大きく上下させてバラ園のバラを散らした。花弁が舞い上がり、なんとも幻想的な光景だった。

 

 次いで、ずしん、という重たい着地音と力強い鷲の前足が芝生をえぐり、逞しい白獅子の後ろ足がえぐった芝生を踏み固めた。

 間違いなく庭師に叱られるであろう。アルフレドは諦めた表情をしていた。


「すごい、綺麗……。きみが、ロゼリオなの?」


 金色の鷲の瞳がじいっと美雨を見つめる。その瞳には隠し切れない好奇心が浮かんでいた。


『アルフ! ほめられた! きれいって!』


 アルフレドの二倍はあるその大きな生き物は興奮し、じたばたと手足を動かした。

 鋭い爪のある前脚がどんどん芝生をえぐり、むき出しだった土すらも掘られて踏み固められ、そしてまた掘られる。


「ロゼ……ロゼリオ! 落ち着くんだ。これ以上掘り返してしまっては、また王宮内への立ち入り禁止を食らってしまう。そうしたら警備に問題が生じてしまうんだぞ、こ、こら! 落ち着けっ」


 興奮したグリフォスは、友の腹にぐりぐりと頭を押し当てていたが、アルフレドに嘴を掴まれてしまう。


『むぐっ! むぐむぐっ!』


「ア、アルフ、なんだか苦しそうだよ。かわいそうだよ」


 美雨がかばうと、獅子の下半身についている先のふさふさした尻尾がふりふりと振られ、また前足がざくざくと芝生を掘りはじめたので、アルフレドは深く溜息をついたのだった。


 どうやら、好き嫌いが激しく、気性の穏やかとは言えないこの友は、美雨のことをとても気に入ってくれたようだった。


***


 数分後。落ち着いたロゼリオの背にアルフレドが乗り、手前に美雨を乗せてしっかりと手綱を引いた。

 キャリーバッグは太いロープでロゼリオの首にかけられており、妙にかわいらしい。


 ロゼリオは、逞しい獅子の後ろ足で地を蹴り、助走なしで、ふわりと空へ飛びあがった。

 しばらく翼を上下に動かし、一定の高さまでくるとアルフレドが手綱を引く。前に向かって滑るように動き出した。

 グン、と体に負荷がかかるが、後ろの逞しいアルフレドの体が背もたれになっていて落ちる不安は感じなかった。


 空の太陽は少し位置を低くしてはいるが、まだ夕暮れには時間がある。

 青い空をロゼリオが滑空すると、城の人々が遥か地上から手を振っているのが見えた。


 そのままアルフレドは方向を定める。

 これから、二人が暮らす家へと向かうのだ。

ロゼリオは男の子です。


次話、彼は彼女にどんな家を用意したのでしょう。

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