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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
大きくなった騎士と彼女とその家族のおはなし
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39 ネスレディア王国を統べる王

「見張りご苦労さま。変わりは特になかった?」

「はっ! 万事問題ございません!」

「陛下のお客だよ。身元はオレが証明する。もう片方は分かるよね?」

「はい、第二騎士団団長アルフレド・フリクセル殿ですね! お元気になられたようで何よりです。お客人の話は伺っております! どうぞお通りください」


 重たそうな鎧を着た騎士が、大輝に敬礼をし、背筋を正しハキハキと話すのを見て美雨は違和感をぬぐえなかった。

 大輝が軽い口調で話しかけているのもあるが……この違和感をうまく表現するのは難しいが、授業参観をする親の気持ちってこんなのかなとも思った。子どもを持ったことはないので分からないが。


 左右に配置された騎士は大輝とアルフレドに敬礼をし、美雨のことが気になるのかちらちらと見てくる。

 好奇の眼差しに美雨が体を固くすると、アルフレドが間に立って視線を遮ってくれた。ありがとう、の気持ちを込めて見つめると、彼は少しだけ笑みをくれた。


「陛下、入るよー」

「だっ、大輝!」


 軽い口調で扉を押し開く大輝に美雨が思わず声をかける。なんて失礼なんだこの弟は! 十七歳からこの世界で暮らしているから砕けた口調のまま、礼儀というものを学ばなかったのかと、くらりとした。


「しっ、失礼しまーす……」


 アルフレドに促され、美雨が恐る恐る入室する。

 広い室内。本棚には大量に分厚い本が並べられている。日本に来たアルフレドが文字を読めなかったように、今の美雨にも読むことはできなった。


 大きく、天井付近まで伸びた窓は綺麗に磨かれていてピカピカだ。そこから差し込む光で室内は明るく照らされている。


 窓から少し離れた場所に設置された執務机には、栗色の髪の毛の少年が座っていた。鳶色のくりくりっとした瞳が愛らしい。

 ただの子どもがこの部屋にいるはずがないと美雨は判断した。しかも、少年はとっても高そうなフリルがふんだんに使われたシャツに、金の糸の刺繍が施されたジャケットと揃いの半ズボンをはいている。やんごとなき身分の方に違いない。


「あれ? 陛下はいらっしゃらないのかな……王子様だけ?」

「こんにちは、お姉さん」


 少年はぴょこんと椅子から飛び降りてこちらへ駆け寄る。美雨の前で止まり、優雅な礼を取った。

 身長は美雨の胸元ほどまでしかない。


「こ、こんにちは。美雨と申します」

「はい、知ってます。でも、お姉さんって、呼びたいな」


 少年はダメかなと、美雨に首をかしげる。その様はとても可愛らしく、庇護欲をとても刺激された。

 美雨は大人の常識と葛藤する。そんな美雨をアルフレドは何か言いたげに見ており、大輝は口を押え、肩を震わせている。


「う、うう……王様が良いっていうなら良いです」

「なら良かったです。お姉ちゃんて呼ばせてね!」

「や、でもまだ、王様の許可が出ていないです」


 美雨が困り果てていると、アルフレドが美雨の後ろへ立ち、肩を抱いた。

 仰ぎ見ると、その端正な顔には同情が浮かんでいた。


「ミュウ。そちらの方が……クロード・ル・ネスレディア陛下。現ネスレディア国王だ」

「え? だ、だってまだ小学生くらいに見える、よ?」


 いたって真面目そのものなアルフレドの表情には冗談のかけらも見当たらない。

 目の前の少年はにこにこと嬉しそうだ。

 困った美雨は視線を巡らせ、口を押えて肩を震わせて笑いを我慢している弟を発見し、本当なのだと理解したのだった。


***


「いやー。みゅーちゃんには黙っておいて正解だったよね。めっちゃ面白かった」

「ダイキのお姉ちゃん、びっくりしてたね! 大成功だ!」

「あの面食らった顔、最高だったよなー」


 いたずらが成功して、いえーい! と手を合わせた国王と大魔法使いに、国の誉れである第二騎士団団長は溜息を吐いて眉間をほぐしている。


「え、っと……いつも、こんな調子なの?」

「ああ。だいたいこんな感じだな。ダイキが出かけている時はきちんと仕事もこなされて立派に国王としての責務を果たされるのだが……」


 頭が痛いとアルフの顔に書いてあるようで、美雨は苦笑いをした。


「アルフのお仕事って、騎士業務だけじゃなかったんだね」

「ああ。本来はこんなことをしなくて良かったのだが……大輝が仕組みを巧妙に変化させて、いつの間にやら、な……」


 そう言いながら、またもや溜息が一つ。あとで二人になったら、頭を撫でてぎゅっとしてあげようと美雨は心に誓った。


 ネスレディアの国王は、別名『少年王』として良い意味でも、悪い意味でも名高い。暗殺された当代の王の後を継ぎ、彼が王位についたのは若干五歳だった。


 後見人として宰相がついたが、何も分からない幼い王を傀儡にした上に幽閉して好き放題。そんな折に異世界から渡って来たのが大輝だったのだという。

 

 それから紆余曲折を経て、二年後に宰相は処刑される。宰相派は勢いを失い、クロード王は大輝を次期宰相にしたかった。だが、大輝はそれを良しとしなかった。

 

 権力を集中させるのがいけないと、少し成長した彼に噛み砕いて教えた。時空の塔の大魔法使いの立場のまま、国の在り方をクロード王と共に変えていったのだという。優しい少年王に、恐ろしい異界の大魔法使いが治める国として近隣には認識され始めている。


「何も知らない僕に、ダイキはいろんなことを教えてくれました。知らないことは、罪だということも教えてくれました。だから、ダイキはニホンに帰りたがったけど……僕が行かないでってお願いしたから帰れなかったんです。ごめんなさい」


「ううん、いいんだよ……あ、気になさらないでください」


 慌てて訂正した美雨に、クロードは子どもらしい輝くような笑顔を見せて、美雨の手をぎゅっと握った。その手は柔らかく、子どもの体温で温かい。


「ダイキのお姉さんなら、僕のお姉さんも同じです。僕にも、ダイキに話すように話してください」

「ええっと……」


 困った美雨がアルフレドを見て助けを求めると、アルフレドは苦笑を浮かべた。


「陛下、ミュウが困っております。すぐには無理です。日が経ち、時間が経過すればきっと打ち解けてお話できるはずです。ミュウは、ずっとこの世界に暮らすのですから」

「そうでした。お姉さんは、フリクセル団長の奥さんになるんでしたね」


 クロードの言葉にアルフレドはしっかりと頷いた。


「はい。きっと、陛下の良き理解者となりましょう。だから慌てず焦らずにいきましょう」


 小さな子どもなのに、アルフレドはしっかりと仕える主として接している。生真面目な彼らしいと美雨は嬉しくなる。


「あ、そうだ。クロード、これお土産なー」


 大輝が思い出したようにコンビニ袋を取り出して、クロードに渡す。

 受け取った少年は目を輝かせた。


「大輝、ありがとう! このマンガの最新刊が読みたくって!」


 ……大輝は、ちょっと界渡りを簡単に考えすぎじゃないかと、少し頭痛がしてきた美雨だった。


「陛下、その漫画は山積みになっている書類に目を通し、サインして頂けるまでお預けです」


 アルフレドの長い腕が伸びて、クロードの手から単行本を抜き取ってしまう。

 クロードは残念そうな顔をしていたが、とことこと執務机に歩き、羽根ペンを手に取った。体が小さいので、大人用の羽ペンがすごく大きく見えてなんだか微笑ましい。


「よし、書類を早く片付けて、寝る前には漫画を取り返すぞ!」


 なんとも奇妙な光景に、この国は、思っていたより平和そうで良かったと美雨は胸を撫で下ろしたのだった。

▼ 少年王は単行本の新刊を手に入れた…!

▼ だが、アルフレドに没収されてしまった…!


次話、騎士の友に美雨は認めてもらえるのでしょうか。

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