17 忘れられていたお土産
前回、美雨のダメっぷりを披露したので心配だったのですが、まだお付き合い頂けているようでほっとしてます><
これからの美雨の成長を優しく見守って頂けたら幸いです。
あの日曜日から三日後の水曜日の夜。美雨は確信した。
「ねえ、アルフ。やっぱり、髪の毛の黒い部分が少なくなってきてるみたい」
三面鏡を開き、アルフレドに確認すると今度は彼も頷いた。
「ああ。確かに減ってきている」
彼の反応はあっさりとしたもので、美雨は少し拍子抜けする。
「あんまりびっくりしてないね、アルフ」
「いや、驚いているというよりは納得しているな」
説明するより見せる方が早いかと言い、アルフは剣を抜いた。
「わ! 何これ。前よりずっと光ってる!」
以前、海辺で見せてもらった時は青白くうっすらと発光しているくらいだったが、今の剣は青白くというよりは真っ白に輝いている。
「体力は回復したが、魔力だけずっと回復しなかったんだ。まるで何かに妨害されているかのようでな。しかし、日曜あたりから少しづつだが魔力が回復するのを感じた」
「日曜日……。お出かけした次の日だよね。何がきっかけだったのかなあ」
思い返しても、ちょっと恥ずかしい思い出しかなくて首を捻る。
「魔力が回復したというよりは、回復できなくなっていたのが正常に戻ったような感じだな」
「あ。それってもしかして、アルフの闇色に染まってた髪の毛のこと?」
美雨の言葉にアルフレドが頷いた。
「そうだ。受けていた闇の力が抜け出ていっているんだろう」
「良かったね。もうさすがに一週間以上経ったから少しづつ抜けていってるんだろうね」
「いや。闇の力はそんな生易しいものではない」
アルフレドは剣を鞘に納め、ゆっくりと首を振った。
「勝手に抜けることはまずない。浄化の力を使い昇華させるか、あるいは魔石に封じてしまうくらいしか方法はない。最も、昇華の力自体を持つ者はネスレディアには少ない。遥か東の地に住まうという竜の一族には強い力を持つものもいると聞くが…」
「魔石…?」
竜王云々も気になったが、魔石という言葉が妙に引っかかる。何か忘れているような。
「ああ。恐ろしく希少で高価なものだ。見た目はただの石ころだが、魔力、あるいは闇の力を吸い取る。力が溜まると艶やかな宝石のようになり、力を失うとまたただの石ころに戻る」
「……石ころ……日曜日ぐら……い?」
何か忘れていると、美雨は思った。
何か、何か大事なことを……。
「あああ! あの変な石!どこにやっちゃったっけ」
美雨は立ち上がり、慌ててバッグの底を探る。
アルフレドは目を丸くして、その様子をテーブルの上から見守った。
バッグはだいたい同じものを使っている。
出かけるのがほぼ会社の為、忘れ物防止の意味も兼ねているのだ。
ごそごそと底を漁ると固い感触に指先が触れたので取り出す。
「わ! ただの石が黒曜石みたいになってる」
ただの河原で拾った石みたいだったのに。
今、美雨の手の中にある石は真っ黒に染まり、妖しい光を放っていた。
「ミュウ! それは……一体どこで手に入れたんだ」
アルフレドの不審そうな声に美雨は困ったように首を傾げた。
「お、弟にもらったの」
「ミュウ、前から少し気にはなっていたのだが……弟の名前を、聞いてもいいだろうか」
「だ、大輝、だよ」
美雨の言葉にアルフレドは頭を抱え、深ーーーい溜息を洩らした。
「あの、バカの、仕業か……」
「あの……? アルフさん?」
アルフレドの静かな怒りを感じ、委縮する美雨。
「ああ、すまない、ミュウ。貴女に怒っているわけではない」
美雨に微笑みかけるアルフレド。でもその目はなんだか据わってると美雨は思った。
「ただ、あのバカにな。あのバカに、少し、苛立ってはいるな」
すごく、怒ってるよね。アルフ、すんごい怒ってる。
そうは思ったけどとても口には出せない。
美雨に怒ることは絶対にないだろうけど、それでも怖い。すごく。
「ええーっと、うちの、弟が、ご迷惑を……」
「ミュウ、その魔石を貸してくれないか」
「はい、どうぞ、お好きなようにどうぞどうぞ」
美雨が魔石をアルフレドに渡す……と言っても、小さな騎士には大きすぎたので目の前にコトンと置いたのだが。
それに手を伸ばそうとし、アルフレドは手を止めた。
美雨を見上げ、口を開いた。
「ミュウ、良かったら少し、話をしていいか」
「はい。なんでもどうぞ」
何故か丁寧に話す美雨を不思議そうに見たが、アルフは言葉をつづけた。
「その前にひとつ質問なんだが。あのバ……ミュウの弟が行方不明になったのは六年ほど前か」
あ。今、バカって言おうとした。その言葉を飲み込む。
「うん。ちょうど六年前」
なんだか、とても嫌な予感がするなと思いながらも美雨はこっくりと頷く。
「ミュウの弟の名前はダイキ。それは間違いないな」
「う、うん。そうだよ。大きく輝くと書いてダイキ」
「ほーう。そんな意味があったとはな」
皮肉げに口の端を上げるアルフレドは、いつも美雨に優しく礼儀正しい小さな騎士とは別人のようだ。
そう。それくらい怒ってる。激おこってこういう時に使うのかなと美雨の頭は現実逃避を始めそうだった。
「しかし、血が繋がっているとは思えないな。ミュウはかわいいし、優しいし、素直だしこんなにも不器用なのに、あのバカときたら……」
「あ、あの、アルフ?」
さりげなく褒めちぎられて顔から火が噴きでそうになるが、後半の怒りに震える声に別の汗的なものも噴出してくる。
私の弟は、私が思っていた以上にどうしようもなかったみたいです。
▼ 大輝は寒気を感じた…!
▼ 美雨は疲れを感じた…!
▼ 騎士は頭痛を感じた…!
次話は、バ…大輝くんの事情です。