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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
小さな騎士と大きな彼女のおはなし
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15 空を翔ける友の話

 車の窓を開けると風が冷たい。

 でも、閉めていると日差しのせいで車内は暑い。

 ……かといってクーラーを付けると寒すぎる。


 そんな微妙な季節のドライブを楽しむ美雨とアルフレド。


 昨晩、せっかくの日曜日だから2人でどこかに行こうかという話になった。

 とはいえ、小人のアルフレドは人目につかないようにしなくてはならなくて、じゃあどこに行こうかと考えた美雨はぱっと顔を輝かせた。


「少し遠いけど、良いところがあるよ」


 このアパートと海岸くらいしか知らないアルフレドに断る理由もない。


 うららかな日曜日。

 美雨の運転する小さな軽自動車に乗り込み、アルフレドはドリンクホルダーに収まってドライブ中というわけだ。


「アルフ、疲れたら言ってね。まだ30分くらいかかるから。休憩入れる?」

「いや、問題ない。魔獣に騎乗したら半日くらいは乗りっぱなしが常だから、慣れている」

「……魔獣って乗り心地いいの?」


 美雨の言葉にアルフレドは首を捻る。


「オレの契約魔獣は少なくとも乗り心地はいいな」

「どんなコなの? やっぱり空を飛ぶんだから鳥なのかな」

「ああ、翼は確かに生えているが、鳥ではないな。魔獣だ」


 アルフレドの答えは要領を得なくて美雨は怪訝に思う。


「えーっと、鳥じゃなくて翼が生えているってことは……ま、まさか虫なの!?」


 考えをめぐらせ、頭に浮かんだのは美雨の最も苦手とする種類の生き物だった。


「いや。虫ではない。虫は獣ではないだろう」


 不思議そうな表情のアルフレドに美雨はほっと胸を撫で下ろした。

 虫に騎乗し、剣を構えるなんて、小人だったらまだ許せるが、アルフレドが人間の大きさだったらもちろん虫も相応の大きさなわけで。となると、虫の足のあのギザギザとか…リアルに想像しかけて美雨はぶるっと身震いをした。やめよう。


「魔獣はどんな生き物か。と問われれば難しい。色んな姿が混ざり合ったものが魔獣だからだ」

「一種類じゃないってこと?」


 美雨の想像の中では、イヌ科の柴犬とジャッカル程度の違いかと認識していたのだが、どうも違うらしい。


「じゃあ、魔物は?」

「魔物も姿は魔獣に似ていることもあるが……魔物は対峙すれば必ず分かる」

「見たことなくても?」

「ああ。さすがのミュウでも、回れ右をするくらいにはわかる」


 ちょっと小馬鹿にされていると思いながらも美雨は質問を続けた。


「見た目が異質なの?」

「見た目も異質だが、何よりまとう空気が違う。それこそが赤き月より渡ってきているという話がお伽噺ではないのだろうと思う証でもある。ゆえに、女神も必ず存在し、精霊も存在すると言われている」

 

 確かに。魔物だけ存在しているなんておかしな話だし、何よりも女神も精霊も存在すると思わないと、なんだか救いが無いような気がする。


「オレの魔獣は特殊でな、上半身は鷲、下半身は獅子の姿をしている。竜の吐息を持ち、多少の魔法を嗜む」

「えーと…」


 美雨の脳裏に何故かオカピーとか獏が浮かぶが絶対違うと思った。


「そうだな、頭部は白い鷲。黄色の嘴に金色の瞳だ。白い羽毛と首のあたりで黒い羽毛に切り替わり、そこから大きな翼へと同じ毛色が続く」


 ゆっくりとした口調で話すアルフレドの瞳は誇らしげで、少し寂しそうだ。


「前足は力強い鷲の足。そこから下半身は白い獅子の体躯だ。あとは、細く伸びた尾の先端に柔らかな白い毛が付いている」


 言われた通りに脳内で再生していくと……ファンタジー映画で見たことのある生き物が出来上がる。


「あれ? グリフォンなの?」


「この世界にもいるのか? オレの世界ではグリフォスと呼ばれる区分で、めったに現れないんだが」

「ううん、こっちの世界では現れないし実在もしないよ」


 こちらの世界の住人は空想が得意なのだなとアルフレドは感心する。


「でも、アルフの世界の魔法使いも団子作ろうとしたりしてたし、何か繋がりがあるのかもね」

「ああ。アイツは元々、界渡りだからな」


 何気なく発したアルフの言葉に、美雨はあやうく事故を起こすかと思った。


「え!? だから団子とかしょう油とか…!? まさか日本人なの!?」

「日本人かどうかは知らないし、どこの異世界かも分からないが……そういえばミュウは少し似てるような気がするな」


 ドリンクホルダーから注がれるアルフレドの視線になんだか顔が熱くなる。

 あんまり、じっと見ないでほしい。


「だが、ミュウはぱっちりとした二重だし、肌はミュウのほうがずっと白くて綺麗だ。魔力もよくは見えないが陰険なあいつとは全く違う優しい色をしている。髪も明るい茶色だし…ああ、これは本当の色ではないのだったな」


「そそそそ、そうだよ。染めてパーマもかけてます。で、でも、もしかしたら日本人かもしれないね」


 まじまじと見みつめられて、しかも褒められると恥ずかしい。美雨は片手で顔をパタパタと扇ぎ、なんだかもぞもぞと座りなおした。そして考える。


 その異世界人はどうなったのか。


 奇しくも同じ立場--いや、小人になった分、彼の状況はもっと悪いだろう。

 それをアルフレド本人に聞けるほど美雨は無神経ではない。


 美雨はアクセルをぐっと踏み込み、山道をどんどん進んで登って行った。


団子と醤油を作り出そうとした魔法使いさん。

その彼の戦いは「時空塔の魔の三日間」と呼ばれてるとか呼ばれていないとか。


次話、目的地到着です。

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