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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
小さな騎士と大きな彼女のおはなし
10/81

10 騎士の剣

 先ほどの気まずい雰囲気の後、考えた末にアルフレドはテレビを付けておくことにした。

 その方が美雨も気が楽だろうと思ったのだ。


 いつもよりだいぶゆっくりお風呂から上がってきた美雨の目は少し赤かったが気づかないふりをした。


 美雨は、アクション映画が大好きだ。特にナイスミドルな肉体派の少しお茶目なおじ様に目が無い。

 ほぼ定時で上がれた仕事。夕食は食べた。お風呂にも入った。今日は金曜日。そして夜の九時とくれば…。


「わー! カッコいい。かっこいいねえ」

「すごい立ち回りだな。無駄がない」


 興奮気味な美雨の声に、感心した声を上げるアルフレド。


 この一週間の間にだいぶ現代っ子となった小さな騎士は初めて見るアクション映画に釘付けだった。

 彼曰く、テレビは言葉と文字と音声が入っているから合理的に学習できるのだと言う。言葉はしゃべれるので受け身の情報のほうが都合が良いのだろう。


「あー、面白かった。お。来週は魔法学校の映画があるよ」

「魔法学校? そんなものもあるのか」

「あ、えーと、物語の中ではね」

「ああ、そうか。こんなに魔力があっても使う方法を知らねば扱えないものなのだな」


 美雨に魔力があるとアルフレドは教えてくれたが、正直な所さっぱり分からない。今まで25年間生きてきたけれど不思議体験なんてしたことない。いや、つい最近小人を拾ったか。


「もう十一時かー。でもせっかく金曜日なんだしまだ寝たくないね」

「美雨は宵っ張りだな。普段は十一時半には必ず眠るのに」

「仕事が大事だもんね。寝不足でミスとか怖すぎるもん」


 防げることは防いでいきたい。でも夜更かしだってしたいのだ。


「そうだ、アルフ。お出かけしてみない?」

「いいのか?」

「うん。ここらへんは田舎だから、金曜日でも夜中なら誰もいないよ」


 気遣わしげに見上げるアルフレドに大丈夫と頷き返す。


「でも、念のためにバッグには入ってて。確認してから出すね」

「助かる。ありがとう」

「新聞に“小人! 発見される!!” って書かれたくはないもんねー」


 おどけた美雨に、アルフレドは苦笑いで返したのだった。


***


 夜中の十二時を少し回った頃。

 アパートの三階から季節外れの籠バッグを持った美雨が降りてくる。

 籠バッグならアルフレドもまわりの状況が確認しやすいだろうと2人で相談して決めた。

 アルフレドは、カラスのことをまだ警戒していたからだ。

 中には百均で買った小さなクッションが敷いてあるからちょっとした衝撃も大丈夫だろう。


「でも、夜中に女性を一人歩きなんて危険な真似をさせるわけには…」


 行くと決めてから言い出したアルフレドに美雨は呆れた。


「大丈夫だよ。確かに変な人はいるけど、アルフの国ほど危険じゃないから。それにいざとなったら防犯ブザーもあるし、催涙スプレーは無いから……制汗剤でも持って行こうかな」


 そう言って美雨が入れた品々は、アルフレドに当たったりしないよう、小さな巾着に入れて籠バックに入れてあった。


 あらかじめした打ち合わせ通り、美雨は少し離れた駐車場へと向かう。

 空には半月に満たない月が浮かんではいるがそんなに明るくはない。街灯を頼りに進む。途中でアルフレドを拾った草むらの横を通ると、一週間が過ぎたそこは草が払われており草の切り口が並んでいた。


「へー。業者さんが入ったのかな」


 アルフレドが隠れている時じゃなくて良かったなと思いながら見ていると、草の根が何かキラリと光ったように見えた。


「んー?」

「どうした?」


 歩みを止め、屈んだ美雨に心配そうな、しかし控えめな声が籠バックからした。


「うん、なんか光ったような気がして」


 空き缶にしては妙に反射していた……。

 なんだか気になって、鞄からスマホを取り出して明るく照らすと、草の根の間に小さなペンダントトップのような剣が落ちているのに気付く。


「ん? なんだろう。綺麗……」


 つまみ上げてよくよく観察すると、赤い宝石のようなものが柄についていて、見たことのない精緻な模様が施された鞘。小さな革のようなものも輪になって着いている。


 ――小さな剣は、小さな騎士を拾った場所に落ちていた。

 ひとつの可能性に思い当たって美雨は息を呑む。


 一応確認したが、真夜中の片田舎の田んぼ道は誰もいない。籠バックに明かりのついたスマホを入れると気遣わしげなアルフレドの顔が見えた。


「ねえ、アルフ。剣はいつから無いの?」

「こちらへ渡った時にはもう無くしていたのだから、あちらにまだあるのかもしれない」

「その剣って、綺麗な赤い宝石みたいのが付いていたりする?」

「ああ。女神の瞳を模したガーネットが埋め込まれているが……ミュウ?」


 アルフレドの顔が驚きと期待に満ちたものへと変わる。美雨は拾った剣をアルフレドに差し出す。


「……ミュウ。ありがとう」


 アルフレドは剣を抱きしめ、深く頭を下げた。


「ここに一緒に渡ってきてたんだね。見つかって良かった。大事なものなんでしょう?」

「ああ、騎士の証であり、第二騎士団団長の証でもある。そして何よりオレの魂そのものだ」

「そっか。良かった。どうしよう、一旦家に帰る?」

「いいや。最初の予定通り出かけよう」


 籠バックを大切に抱えて、当初の予定通り駐車場へと歩き出す。

 事前の打ち合わせでは、車に乗って15分程の場所にある海岸に行く予定だ。


 駐車場に着き、車に乗りこんで籠バックからアルフレドを出してやる。ドリンクホルダーに彼を乗せると、いつもより視線が近くなる。


「剣、良かったねアルフ」

「ああ、本当に良かった」


 嬉しそうなアルフの腰にはしっかりと剣が帯刀されている。服は出会った時の騎士の服の鎧を外した状態だったけどそういう風に剣を下げる方法があるんだなと美雨は感心する。


「どうする? イスだと転がり落ちそうだし、そのままドリンクホルダーでいいかな。大丈夫そう?」

「そうだな。この場所は外も少し見えるし。何よりミュウと視線が近くていいな」


 なんだか少し大きくなった気がすると言ってアルフレドは笑う。


「ふふ、そうだね。よーし、じゃあ発進するからねー! しっかり捕まっていてね」


 エンジンをかけると、いつものお気に入りの音楽が流れた。ギアをドライブへ。美雨は近場の海岸へ向けてゆっくりと車を発進させた。


▼小さな騎士は剣を取り戻した!

▼装備した!!

▼騎士度が3upした!


***


次こそお散歩します。

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