モモのお仕事
旅人。根無し草。自由人。
様々な呼ばれ方をする私たちだけど、個人的に気に入っている呼称がある。
──冒険者。格好良いよね。
曰く、変わってしまった世界を開拓する者。曰く、頻発する脅威から守る者。曰く……あとは忘れた。ともかく、そういった理念を持って創設された組合に在籍する者の総称として冒険者という呼称が使われる。私こと白地桃とニケちゃんこと……ニケちゃんもその組合の名簿に名前が乗っている。……いや、違うんだよ。別にニケちゃんの本名を知らないとかそういうんじゃなくて思い当たらないというか聞いた覚えがないというかそういう感じなだけだから。ほら、知らないって言うと私がニケちゃんに興味の無い薄情な人間みたいじゃない。違うから。そういうんじゃないんだよ、うん。
閑話休題。旅の身空というと自給自足というか、あまりお金の掛からない印象を持たれることも多いのだけど、そんなことは無い。我々は年頃の乙女なのです。色々と入り用なのです。しかしながら住所不定のか弱い女の子二人が日雇いのお仕事を探すにも限界というものがある。口にするのもはばかられるようなお仕事を紹介されることもあるのだから社会は怖い。
そんな時に登場するのが冒険者組合。登録証を持っていれば少なくとも合法性に関しては安全安心を保証された仕事を紹介してくれる。内容は荒事から町の便利屋のような細やかなお仕事まで様々。例えばニケちゃんは本の解読だとか薬の調合だとか頭を使うお仕事を引き受けることが多い。私はそういうのは苦手なので自然と荒事方面が多くなる。
「まあ、乙女としてはこういうお仕事ばかりというのも、どうかと思うのですよ」
ため息混じりに独りごちる。
今回の仕事内容は野盗退治。街道に出没すると話題の無頼漢を大人しくさせるというものなのだけど、これが地味に面倒くさい。ただ歩いているだけで出てくるなら楽でいいのだけど、相手も生活がかかっているから襲う相手を選ぶ。商隊規模の大人数だと護衛も多いからまず襲わないし、実入りの少なそうな個人運営の商人も大抵は見逃される。狙われやすいのはそこそこ大きな荷馬車を使っている割に護衛を付けていない中規模の商人。野盗連中は街中で目を光らせ、そういった良さそうな獲物が見つかれば徒党を組んで襲うのだ。ずる賢い。
そういうわけで今回、私は組合の用意した『そこそこ稼いで帰る途中の商人の娘』という役で荷馬車に乗り込み、釣れたと感じたところで馬車を停めて車輪に不具合が起こったかのように振る舞う。
そうして現れたのがこのむさ苦しい面々でございます。
「こういう人達って無駄に体つきいいし、結構鍛えてるのって何故なんでしょうね?」
「荷を運ぶのも重労働だからではないでしょうか」
「なるほど」
私の疑問に回答をくれたのはお父さん役の商人さん。道中甘やかしてくれたので好印象です。
「荷の七割置いていけ。そうすりゃあ命は取らねえ。抵抗するなら痛い目見ることになるぞ」
現実的な要求でなによりです。頭の良い野盗は殺人を犯したりはしないのだそう。同じ強盗でも人を殺してしまうと罪は重くなるし、討伐隊が編成されることもある。そうならない為に、奪われても命が助かるなら……と妥協出来る辺りを要求するのだそう。ずる賢い。
「それだけ立派な肉体をお持ちなのだし、普通に働いてみてはどうですかー?紹介しますよー?」
「……巫山戯てんのか、あ?」
きゃー怖い。なんて柄でもないよね。声に出してたら鳥肌が立ちそうだよ。危ない危ない。
とりあえず、交渉は決裂という事で。愛刀の出番です。
「ただいまー」
「ん」
ここ数日別行動だったにもかかわらずひんやりとした対応。ニケちゃんはぶれないね。
「今日はねー、お土産があるんだよー。ほら、果実飴。一緒に仕事した人がくれたんだー」
「食べるです」
「はいどうぞ」
「ふむー」
満足そうな声。お口にあったようで何よりです。




