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湾刀とは弧を描くように曲がった刀の事。今更だけど

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ。

、天幕の前に座って飾り気のない硝子に覆われた灯りを頼りに湾刀に向き合う。刀の手入れの中でも特に気の抜けない研ぎの最中です。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ。

一般的な直刀は頑丈さが売りであるのに対し、この湾刀は切れ味が無いと使い物にならない。よく「こんなに細くて戦えるのか?美術品の間違いだろ?」などと揶揄されるが、実際その通りだと思う。師匠からは『折れず曲がらずよく斬れる』を追求した武器だと教えられたものの、まともに打ち合えば刃こぼれするし、真横からの衝撃にも差程強くは無い。手入れの手間も多いし、なによりお高い。我ながら、こんな面倒な武器よく使ってるなぁと感心することもある。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ。

とはいえ、他に満足に扱える武具がある訳でもなく。消耗品であると割り切りつつも、出費を抑える為にこうして汗を流して砥石に擦り合わせているのでございます。

しゅこ、しゅこ、しゅこ。

「……こんなものかな」

一旦刀身を水に流して具合を見る。まあまあと判断して、脇に置いておいた細かく摺った鋼粉を油と混ぜたものを刀身に乗せて磨いていく。ここからは刀の性能というよりは見た目を整える作業である。

「………………」

さて、そろそろ触れた方がいいのだろうか。天幕の中で本を読んでいたはずのニケちゃんが、入口の隙間から顔を出してじぃっとこちらを見つめている。そう目新しいものじゃないと思うんだけど、なにが興味を引いたのだろうか。

「……研ぎ、やりたいの?」

びくりとニケちゃんの頭が天幕の中に引っ込む。まさかあれだけ露骨に視線を送っておいて、気付かれていないと思っていたのだろうか。それは侮り過ぎというものです。

無言で天幕に目を向けていると、ニケちゃんが這い出てきた。

「……やりたいと言ったらやらせてくれるんですか?」

「うーん」

ニケちゃんのおねだりは叶えてあげたいけど、これは無理かなぁ。自分の武器は自分で手入れしたいと思うのは武芸者の性というものか。

とはいっても、代案がない訳では無い。

手早く磨きを終わらせて、外しておいた柄に合わせた後納刀する。

「これは無理だけど、そっちならいいよ。道具を出したついでにやろうと思ってたし」

と視線を向けたのは天幕のそばに置いてある調理器具群。あの中には包丁が入っている。同じ刃物だし、好奇心を満たすには充分だろう。

「包丁取ってきてくれる?」

「わかりました」

素直に頷いて目当ての品を探り当てて来るニケちゃん。急ぐのはいいけど、持ち方には気をつけようね。お姉さん身の危険を感じちゃう。

砥石を入れ替え、包丁を持って来たニケちゃんを膝の上に誘導する。

「それじゃあ、包丁の刃がこっちを向くようにして、刃の上に指を置いて砥石に寝かせる様に……ああ、完全に寝かせちゃ駄目だよ。もう少し平を浮かせて。そうそう、そのくらい。それから角度を保ったまましゅっと押す。上手上手。指の位置を少し動かして、またしゅっと。しゅっしゅっしゅっと。……ちょっと見てみようか」

包丁と砥石を水で流し、灯りに当てて刃先を見る。まあ、上出来不出来でいうなら上出来かな。ちゃんと返り(金属が研いだ面の逆側にめくれている状態)も出てるし。

「うん、いい感じだね。じゃあひっくり返して逆の刃も研いでいこうか」

あとは同じ作業の繰り返し。やり過ぎると刃が薄くなって使い物にならなくなるから返りを落とす感じで進めていき、最終的に両面から返りが出なくなれば作業は終了。

「やってみてどうだった?」

手拭いで水気を取った包丁を油紙に包みつつ、膝上のニケちゃんに感想を聞く。

「……疲れました」

それはそうだろう。刃物を扱うから緊張もするし、角度を保たなければならないから集中力も欠かせない。初めての研ぎなのだから余計に疲労しただろう。

「指が太くなりそうなのでもういいです」

「あはは」

それは暗に、私の指が太いと言ってるのかな?……いや、大丈夫。普通。標準的な大きさのはず。他の子の指と比べたことなんてないけれども。同じくらいのはず。きっと。……多分。

自分の指を揉んでいるニケちゃんの後ろ頭に顎を乗せて息を吐く。

「重いです」

「いいじゃないー。私も疲れたんだよー」

「むー」

とても傷ついたので膝上の罪深い小動物を愛でて癒されることにした。

あー、ニケちゃんやわらかーい。

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