感性は人それぞれ
たまに、ニケちゃんが分からなくなることがある。そんな一幕。
「……もも肉」
「え?」
なにか不穏当な言葉が聞こえた気がして、つい振り返ってしまった。後ろを歩いているニケちゃんが私の太腿の辺りをじっと見つめていた。
「モモの、もも肉」
「………………」
はっきりと聞こえた。なに、今の。
「モモのもも肉」
「………………」
にやぁと、ゆっくりと口角を持ち上げて肩を揺らすニケちゃん。笑ってる……。
「モモ、もも、もも、モモ、もも、モモ……」
ごめん、何が面白いのかわからない。もしかしてお腹すいてるのかな……?二、三刻前にお昼ご飯食べたところだけど。
「えっと……、ご飯にする?」
「は?」
何言ってんだこいつ、と言わんばかりの半目で見上げてくる。違うのはわかったからそんな目で見ないで。なんだか悲しくなるから。
「いや、もも肉がどうのと言ってるからお腹すいたのかなぁ、なんて……」
「そんなわけないでしょう。私はモモほど食い意地張ってないですから」
それは嘘だね。
「じゃあ、なんなの、モモのもも肉って。私の足は美味しくないよ?」
「違うって言ってるでしょう。そんなだから脳筋なんて言われるんですよ」
「それ言ってるのニケちゃんだよね」
「一人言っていれば百人は言ってますよ」
「なにその理論……」
自分が言ってることは否定してないし。繊細な乙女心が傷つくよ。
「まあ、いいや。それで結局どういうことなの?」
「面白いじゃないですか」
「………………」
「モモのもも肉」
…………うーん、面白くはないかな。
表情から私の心中を察したのか、ニケちゃんはむっと唇を尖らせた。
「モモのもも肉」
「………………」
「モモのもも肉」
「…………うん」
「モモのもも肉」
「えーと……」
「モモのもも肉」
「………………」
あれ、もしかして笑うまで続ける気なのかな?
「モモのもも肉」
「あー、うん、おもしろい……ね?」
なんとか返してみたものの、嘘を吐ききれず疑問形になってしまった。そんな私にニケちゃんは、
「……モモなんか嫌いです」
と言って私を追い抜いてしまった。
──すぐに追い掛けて平謝りしたのだけど、やっぱり何が面白いのかは分からなかった。




