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他人の本音は苦くて塩っぱい

「うわぁ」

思わず声が出た。

目の前に広がるのは薄く赤茶色の水が張った畑……なのかな?何も植えられていないけど。

「なんだろうね、これ」

隣の物知りさんに訊ねてみる。

「知らないですよ」

首を振るニケちゃん。よく見ると鼻が動いている。そう言えばどこかで嗅いだことのあるような匂いが立ち込めている。どこで嗅いだんだっけ。

「む」

いきなりニケちゃんが体を寄せてきた。なんだろうと視線を辿ってみると、地元の人だろう男の人が麻袋を担いでこちらへ歩いて来ている。うーん、まだまだ人見知りの克服には時間がかかりそう。

とはいえ、丁度いいところに通り掛かってくれました。

「すいません、ここはなにかの畑なんですか?」

「ん?ああ、これか。舐めて見ればわかるよ。指先を軽く浸す感じでね」

頭に魚っぽい鰭のあるお兄さんに勧められた通りに指を浸けてみる。濡れた指先を口に含むと、なんとも言えない苦味と塩気が口いっぱいに広がってきた。

「……しょっぱい」

渋い顔をするとお兄さんは大笑いして謎の畑について教えてくれた。

「これは塩田といってね。海水を天日で乾燥させて塩を採るんだよ。雨が降ると台無しになるから、海が近くて雨の降りにくいこの辺りでしか見られない貴重な光景ってやつだな」

「でも塩って白いですよね。海水もこんな色じゃないし」

以前ニケちゃんと遊んだ海は透明とまでは言わずとも、このような赤茶色ではなかった。

「俺もよく知ってるわけじゃないんだが、なんでも塩っていうのは精製する環境によって色味が変わるらしい。白い塩はちゃんと不純物を取ったやつだな」

「じゃあ、この苦いのが不純物なんですか」

「不純物っていうのは土や海藻の色だよ。苦いのはにがりの味だ。ここのはまだ日が浅いからな。これから塩が採れるまでの間、もっと凝縮して苦くなるぞ」

なるほど、にがりってこういう風に出来てるんだ。

「この辺りじゃあずっとこうやって結晶化させた塩を採取してたんだが、最近は色々発展して気候にも左右されない大規模な製塩が出来るようになってな。こういう塩田は効率が悪いっていうんで減ってきてるんだよ」

「そうなんですか」

ありがちな話ではあるけど、実際に聞くと残念な気持ちになる。面白い場所なのに。

私の反応から考えていることを悟ったのか、お兄さんは笑って手を振る。

「とはいっても、無くなるってことはないけどな。新しい採塩法は効率はいいが金も掛かる。ここらみたいに細々やる分には塩田の方が都合もいいしな」

あ、そうなんだ。早とちりでした。

「そっちのお嬢ちゃんも舐めてみたらどうだ。さっきも言ったがどこにでもあるもんじゃないぞ?」

水を向けられたニケちゃんは俯いて小さな声で答える。

「実験台はモモだけで十分です」

聞こえなかったお兄さんは首を傾げたけど、聞こえた私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

せめて味見って言ってよ。

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