物を売るにはまず宣伝
とある宿屋の一室。
外では風が吹き荒ぶ中、寝台に寝転んで掌大の箱から伸びた取手をくるくる回す。
〜〜〜♪
取手を回した分だけ、風が壁を叩く音とは違う均整の取れた音が流れ出る。ある程度回すと箱から流れる音色は少し前に流れた音に戻った。
「それはなんなんです?」
読んでいた本から顔を上げてニケちゃんが聞いてきた。
「自鳴琴っていうんだって」
仕組みは簡単。箱の中身は取っ手の先に繋がった筒状の金属と櫛状に加工された金板が仕組まれていて、取手を回すと筒が回転して筒から生えるように付けられた小さな出っ張りが金板を弾いて音を鳴らすんだそうです。
「凄いよね。こんな箱から音楽が流れるんだから」
大きな都市なら大道芸人なんかが楽器を鳴らしていたりするけど、基本的にはお祭りか楽団主催の催しを見に行くくらいしか音楽に触れる機会はないのが普通。お手軽に楽しめるのなんてお金持ちくらいだったのに、この自鳴琴があればたとえ旅の身空でも楽しむことが出来るという、まさに大発明なのです。
「この街の鍛治屋さんが楽団と協力して作ってるらしいんだけどね、名物にするためにこれから大きく宣伝していくんだって。いろんなところで宣伝してくれるならって安くしてくれたんだ」
「その条件意味あるんですか。確認のしようがないですよね」
「それだけ一生懸命なんだよ」
もちろん私はちゃんと宣伝するつもりです。約束は守らないとね。
「別にいいですけど。モモ一人で頑張ってください」
つれないことを言ってニケちゃんは読書に戻った。まあ、そのつもりだったんだけど。
改めて自鳴琴の取手を回すと、手を止めた場所から旋律が再開する。
〜〜♪
「〜〜♪」
耳に馴染んできた旋律を口ずさむ。
いつもはうるさいと言ってくるニケちゃんからも苦情は出なかった。




