情報、大事
町に入ると、私たちは二手に別れた。ニケちゃんは宿探し、私は情報収集。
普通は頭のいいニケちゃんが情報収集を行った方がいいと思うのだろうけど、あの子はとんでもない人見知りだから無理なのです。手の動く人形と言っても差し支えないくらい。
「おじさーん、何か安いのあるー?」
「何かってなんだよ。大抵は『いいのあるか』って訊くもんだろ」
半ば呆れたように返してきたのは屋台の大将。女子供は酒場なんて行っても酒の肴になるのがオチなのです。
「だってお金ないし」
「金がねぇんなら稼げよ。冒険者だろ、お前」
私の腰に備えられた湾刀に目を向けて溜め息を吐く。
「お金の管理はニケちゃんがしてるんだよー。お土産買って帰るとすっごい怒られるの。五色の花瓶とか綺麗だったんだけどなー」
あの時のニケちゃんは怖かった。花瓶を見た瞬間の顔を見て、思わず土下座しちゃったもん。
「……大変だなぁ」
「でしょ?」
「お前じゃねぇ」
でしょうね。
「ほらよ」
と、大将が差し出してきたのは二本の串焼き。
「あれ、まだ注文してないんだけど?」
「一番安い串だ。流石に出せるだろ」
「あー、うん。ありがと」
明らかに一番高い感じなんだけど。親切にはお礼。なむなむ。
「ところでさ、何か目新しい噂ってある?噂っていうか情報?」
「残念なのにキッチリしてんな、お前」
それ、誉めてる?
「噂っていやぁ、東の草原に居座ってた竜が死んでたんだと。素材を回収した形跡が無かったから、竜と同等かそれ以上の化け物が出たんじゃないかって騒ぎになってるな」
あ、それ私。
竜がいるなんて聞いてなかったからさー。野宿してたら襲い掛かってきたからやっちゃった。てへ。
「間違っても見に行こうとか思うなよ?」
「わかってるって。他は?」
「あとはちっせぇ森で神隠しがあっただの、三日間続いてた雨雲に穴が空いただの、変な話くらいだな」
あ、最後のはニケちゃんだ。
「ふぅん。いろいろありがとね」
「もう来んなー」
しっしっと猫を追い立てるように見送られ、私はニケちゃんとの合流場所に向かった。
「何かありました?」
再会するや否や、生きた彫像と化していたニケちゃんが訊いてくる。
私は串焼きを渡して少し考える素振りを見せたあと、首を振った。
「特になにもなかったよ」