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学習院
15年前の1884年9月1日にわたし、道忠は6歳で学習院初等科に入学した。
校長は、谷干城で、西南の役の際に熊本城を死守して、西郷軍の北上を食い止めた功績の持ち主である。
入学時に、校長は、「剛 倹 柔 徳」の四字を以て、軍人の心構えを説いた。つまり、「物事に動じない精神力を養え。華美にせず、つつましく生きよ。柔軟な思考を持て。誰からも慕われる人徳を持て。」との訓戒だった。
わたしも皇室の藩屏の端くれとして、いずれは陛下の股肱の臣下として活躍したいと思っている。
しかし、わたしは生まれつき病弱なので、帝国軍人としての活躍は期待できそうにない。
今思うに、あのご時世、私には、政府のいずれかの役所に入るしか道は無いように思えた。あるいは、経済界に入るか。しかし、それはせっかくわが家の興隆を目指す父の訓えに反するように思える。