人質
薄暗い部屋で目を覚ましたキリクは変な夢を見たせいか、嫌な汗がじっとりとまとわり付いていた。静かに体を起こし、きょろきょろと部屋を見回してから状況を把握した。
「私……どうなるのかな」
答えなんて誰も答えてくれないことを分かっている。それでも口に出さずにはいられなかった。父も母も亡くし、国の中枢を担っていた華族も殺されてしまった。この国をすべるのはキリクしか残っていない。しかし、キリク一人にはそれは荷が重過ぎる。国王が死んだこと、襲撃されたこと、キリクしか残っていないことをどう国民に話す?話したところで混乱を招くだけじゃないか?当然、不満や不安を持つ者も多くいるだろう。どうする?
「姫さん」
ぐるぐると頭の中が混乱してきているとき、扉から昨日の少女の声が聞こえてきた。キリクはハッとして顔を上げた。落ち着け、と自分に言い聞かせるように深呼吸を一つして「どうぞ」と声をかけた。
「起きてた……?」
「えぇ、大丈夫」
「よかった……。あの、下でコウが呼んでるの。来てくれる?」
コウ、というのが誰を指すのか分からなかったが昨日居た誰かだろう。当然断る理由も術もなく、静かにベッドを降りて少女についていった。
「コウ、姫さん呼んできた」
「あぁ、単刀直入に言おう。お前は人質としてここにいる」
昨日見た大きめのテーブルに座ったまま、顔を見るなりそう告げられた。別段驚きはしない。しかし、キリクは既に交渉をするつもりで話を聞きに来ていた。ここがヒイラギの想定外のことだった。
「何の為の人質ですか」
そう聞き返すとほんの少し、戸惑ったようだった。当然だ。ヒイラギの支持とは違っていたのだから……。しかし、今更それくらいで動揺するわけがない。
「……それをお前が知る必要はない」
「なら、昨日私たちを襲撃したのはあなた方ですか」
「……さぁな?どっちだろうな」
ふっと妙に落ち着いた笑みを浮かべて、キリクを見据える。そこには明らかな敵意が垣間見えた。しかし、キリクはひるまなかった。
「私は何の為に、いつまで貴方たちといればいいのですか」
「お前に話す必要は――」
「国王亡き今、王となるのは私です。その王直々に要求を聞くと言っているのだ。話しなさい」
凛とそう言い放った。これにはコウもサクラもヒイラギも息を呑んだ。彼女の中に王たる“器”が存在すると、そう思わせるものがあった。だが、同時に計算外のことが多すぎて今後の予定が狂うことが目に見えている。コウはそっとヒイラギとアイコンタクトをとった。『要点だけを話す』それで2人の間でまとまった。
「この国を変える」
「な……」
「そのためには王も華族も邪魔だった。それだけだ」
キリクは動揺を隠せなかった。国を変えるために、人殺しまでするのかと……。
「なら、私にも協力させて」
「は……?」
キリクの発言に一同唖然とした。当然だろう。王になるべき人が改革の手助けだと?たった一人の国を守る者が?誰がそんな反応を想像しただろう。否、誰もしていなかった。