反省
部屋へとキリクを連れて行った少女・サクラがリビングへと戻るとキリクを誘拐した本人・コウとサクラとともに待っていた少年・ヒイラギがなにやら打ち合わせていた。サクラが戻ってきたことに気づくとコウは手招きをし、テーブルの右端へと座らせる。
「で、ヒイラギ。俺は聞いてないぞ?姫さんが護身術しているなんて」
「だって言ってないもん。しいて言うならコウがあそこまで弱かったのが計算外かな」
「お前……!」
ピンっとヒイラギの額を弾く。まるでじゃれあっている兄弟のようだ。恐らく今日の反省をしているのだろう。そんな彼らを見るのがサクラは好きだった。そしてそろそろ戻ってくるはずのもう一人の仲間を待っていた。
玄関の扉が二回、少し間を空けて三回のノック。その後にキィと扉が開き、軋む音がする。帰ってきた。これで全員だ。
「御首尾は如何かな?」
「ハク!」
ひょこっと顔をのぞかせたのはキリクの側近として護衛を勤めていた兵士だった。そう彼もまたサクラやコウ、ヒイラギの仲間として活動していた。つまりは全て仕組まれたシナリオ通りということになる。何者かにパーティ会場が襲撃されたとき、コウの傍へと誘導したのはハクということ。
「いやぁ、流石にあの惨劇を見たときは俺も背筋が凍ったね」
「よく言うよ」
「で、俺たちの大事なお姫様は?」
「部屋。多分、もう寝てる」
ハクは状況を確認しながら、一人うんうんと頷いている。こういうときは大抵、彼が興味がないときだ。そのまま、頷きながらどこかふらりと姿を消したところを見ると本当にどうでもよかったようだ。コウはそれを見て小さく肩をくすめ、やれやれというようにゆるく首を振った。
気を取り直すように向き直り、今後の行動についての話を始める。
「ヒイラギ、詳細」
「うん。まずはパーティ会場を襲撃したのは未確定。でも狙いは華族の皆殺しだと思う。国王を言いくるめて政治を動かしていたのは華族だったからね」
「国王、王妃の安否は?」
「ハクが医者を呼んでくれたから医者任せってところだね。あと、お姫様にはこの事は内密にね?脱走されると困るから。しばらくは悪いけど、思考は上手く働かないと思うし」
あれだけの惨劇を目にした。普通、耐え切れるものではなかったらしいその光景を一瞬とはいえ見てしまったのだ。しばらくは正常な判断をできないだろうとヒイラギは踏んだのだろう。
「しばらくはここで待機。僕は情報を集めるよ。買出しにはサクラが行って、コウはここでお姫様の護衛兼監視」
てきぱきと役割と振り分け、話が終わりに近づく。これがヒイラギの役割だった。情報収集と作戦を立てる、彼らの中枢を担っている。各々の役割を全うするだけ……。