小屋
静まり返った森を黙々とこちらを見ることもなく歩き続ける。何度か爪先の方向を変えようとしたが、その度に不意にこちらをちらりと盗み見る。まるでキリクが逃げ出そうとしているのを分かっているように……。そのお陰でキリクは完全に逃げるタイミングを逃してしまった。走行しているうちに森の切れ目が見えた。木々が切り開かれていて視界が拓けている。その中でそっと、それでいてずっしりと構えている小屋から明かりが漏れていた。どうやら目的地はここだったようでつかつかと迷いなく玄関へ向かい、さらに奥へと進んでいく。入っていいものかと立ち止まっていると無言で振り向き、入るように促した。薄暗い廊下の突き当たりから小さな会話が聞こえてくる。
「サクラ、ヒイラギ」
「おかえりコウ!」
「お疲れ様」
リビングと思しき広めの部屋に設置された五人は座れそうな大きなテーブル。そのテーブルの端と端にまだあどけなさが残る男女がちょこんと座っていた。彼らもまた黒髪だった。彼らはこの国の人間ではないのだろうか……?そんなことをぼんやりと考えているとぐいっと腕を引かれ、我に返った。
「お姫さん。貴女はこっち」
いつの間にかテーブルにいた少女が廊下の奥へと案内しようとしてくれている。さらさらとした真っ黒な長い髪を左右に揺らしながらランプを持ち、廊下を先導して歩く。慌てて追いかけるように後に続いた。
――あれ、なんで私素直に従ってるんだろ?
不思議と敵対心や警戒心が少し解けているように、キリクは感じた。