大井山橋の辻斬
最近はルキナ、牧田、三雲、春芽の五人で行動しているが牧田は戦力外なので実質戦うのは諒以外は女性だと気づいた諒は男仲間が欲しいと切に願っていた頃それを待っていたかのように奇妙な事件が発生した。
「辻斬?」
牧田に呼び出された諒は一人でオカルト研究部である話を聞いていた。
「そう、今ある橋を夜通った者は悉く斬られるそうだ。幸い軽い怪我で済んでいるようだけど、いつ犠牲者がでるかわかったもんじゃあないね」
「で、俺その時代遅れの事件を調査して来いと?」
「女の子を危ないところにいかせるわけにはいかないし、大勢で行くと気づかれる可能性がある。何たって相手は辻斬なんだからね」
「わかったよ。後で場所を教えてくれ」
諒は面白がる牧田を見ながら部室を去った。
事件が起こっている大井山橋。なんの変哲もない橋だがここで辻斬が出ている。
牧田から聞いた情報によると斬られたものは不良が多く、事件現場から少し離れた草むらで木刀が発見された。ヘラクレスさんとも連絡を取り確認をとると神具などではないが微かな霊力を感じたという。被害者は犯人を目撃しておらず周りに人がいないと証言しているので暴走した守護霊が犯人だろうという結論に至った。
そして諒は今、張り込みをしている。はっきりいって暗くて何も見えないのが現状。明かりは犯人に見つかる可能性がある。
なので月の明かりだけで我慢することにした。暫くすると不良らしき人が数人あの橋を渡ろうとしているところが見えた。犯人は不良に狙いを定めているかもしれないので彼らの後を追った。彼らは橋の途中で立ち止まりその内の一人が
「何だあれ?」
と呟き他の仲間たちは橋の向こうを見渡す。
そこには木刀が一人歩きしていた。彼にはそう見えただろう。
しかし、諒にはハッキリと見えた。銀の甲冑のようなものに小さな黒い剣の形をしたものが体中に散りばめられ両目が黒い三角形に囲まれた守護霊の姿が。
その守護霊は不良たちとの距離を一気に詰め木刀を振るう。そして彼らは叫ぶこともなく倒れこむ。
こうも早く犯人に出会えるとは。諒はディスを出しその騎士のような守護霊が自分の姿をさらけ出した。
これは暴走に見せかけた諒をおびき出す為の敵の罠だったかもしれないがこうしなければ、この事件は解決しないだろう。さあ、どうする。腰を落とし身構える。しかし、この守護霊は諒を無視して何処かへ走り出した。
「な、待て!」
諒もその後を追いかける。木刀は道中で投げ捨てたがそれからも騎士の守護霊は走り続けた。
そして行き着いた場所は諒たちが通っている光銘高校の剣道場。中に入ると明かりがついており、一人男が正座して待ち構えていた。そのオールバックの髪型に驚いたが諒は怯まない。
「お前が辻斬の犯人だな。何でこんなことをした」
「な〜に、あれはあの男が言った仮面の守護霊の使い主がわからなくて、目つきの悪い男だったと言っていたから不良を片っ端から叩いていけば出てくると思って」
それは不良に迷惑がかかるだろ。この男は相当頭が悪いと見える。そしてやはりと言うか黒羽 燈葉に偽の情報を聞かされているようだった。
「聞いたぜ。お前があの伝説の不良、赤竜なんだってな」
「は?」
赤竜?聞いたことない名前だ。
「俺はそいつを長年追っている。さあ決闘だ。ここで因縁を終わらせてやる」
「因縁もなにも、俺あんたの名前も知らないんだけど」
「な!俺の名前も忘れたというのか俺は剣道部主将、篠原 真馬だ。そしてこいつが俺の守護霊、白銀」
「わかった。真馬と白銀だな。残念だがやはり人違いだ。俺の話を聞いてくれ」
説得しようと試みるも真馬はそれを拒否し白銀で攻撃してくる。
「しらばっくれるな。そこまで言うなら力づくで行くぞ」
白銀は手の甲についていた小さな黒い剣を取り出す。
「そんな小さいのでなにができるんだよ」
大きさはせいぜい二、三センチの剣。
「まあ、見てな。これが白銀の能力」
篠原がそう叫ぶと小さかった剣はだんだん大きくなり、一メートルほどの普通の剣へとなった。
「どうだ。白銀は物を小さくできる。これはその能力を解いたってわけだ」
篠原は黒い剣を掲げ自慢するが、それは諒に作戦を立てるヒントをあげたようなものだ。
「こうなったら仕方ない。力づくだ」
作戦はなくても勝てるだろうと踏んだ諒はディスを筋肉で強化して力押しにかかる。ディスから放たれた拳は力強く素早く諒では目で追うのがやっとだ。それに合わせて白銀は拳に拳をぶつけてくる。
勝ったのは白銀。ディスの拳は血吹雪をあげる。
「くそ!なんて馬鹿力だ」
力では到底敵わない。諒は剣道場から飛び出し校舎の中へ入って行った。
「逃がすか」
篠原も諒を追いかけて校舎へ入る。校舎の中は明かりがついておらず奥が見えない状態にある。
しかし、篠原は臆することなく前に進む。暫く歩くと何かが通り過ぎた。それは紛れもなく諒だった。篠原はそれを見逃さないように全力で追いかける。
何分か追いかけっこを続け、遂に諒を行き止まりまで追い詰める。
「これで逃げられないぞ。冥土の土産にとっておきを見せてやろう」
そう言うと白銀は両腕についた腕輪、腰のベルト、つま先、あらゆるところから小さな黒い剣を集めそれをボール状にして諒の頭上へとふんわりと投げる。空中でバラバラになった剣は雨のように諒の元へ降り注ぐ。
しかし、それは諒に当たることはなく地面に突き刺さる。
その時、篠原は目を疑った。諒の体は体中を穴だらけにして剣を避けたのだ。人間には到底無理な技だ。人間には。
「騙されたな」
篠原は素早く後ろを振り向くが、その声の主に殴られ尻もちをつく。さらに押し倒され上にまたがれる。
廊下が月明かりに照らされ声の主の顔が見えた。それは篠原に追いかけられ今後ろで穴だらけになっているはずの諒の顔だった。
「お前いつの間に俺の後ろに」
「お前が追いかけていたのは俺に化けたディスだ。ディスは自分の姿形を変えることができる。それを利用して途中で入れ替わったんだよ」
篠原は白銀を動かそうとするがディスが諒の手元でナイフに変身し喉元に突きつけられる。
「降参しな辻斬」
「ちっ」
その後、燈葉のことや諸々(もろもろ)を教え篠原は反省をしてくれた。彼も燈葉に騙されていたのだ。
「そういえば赤竜ってなんのことだったんだ?」
「赤竜は俺の弟を死に追いやった伝説の不良だ。弟も不良だったんだが奴に喧嘩を挑んで意識不明になるまでやられたんだ。今も病院で寝ている」
「そ、そうか。すまんなんか嫌な思いさせたみたいで」
「いや、いいんだ。それより俺にもその燈葉って奴を捕まえるのを手伝わせてくれ」
「え、でも」
「な、いいだろ。俺はお前の役に立ちたいんだ。お前といればやつにも会えるかもしれない。そんな気がするんだ」
グイグイと押し寄せてくる篠原を手で止める。
「わかった、わかった」
牧田たちも戦力アップは歓迎だろうし、なにより篠原の気持ちを無下にはできない。こうして強引ながら頼れる男仲間が増えた。