美しく舞う泥鮫
諒の手は震え続けなかなか止まらない。
だがそれは時間が経つにつれ戻っていく自分の両手を見て止まった。
「この能力は時間制限があるらしいな」
しかし、諒たちの足元のコンクリートがまだ泥々のままなのでそれは物と人間かによって違うのだろう。
しかも諒を守ったディスが泥々になっていないことを見ると霊的な物に鮫の能力は効かないことが証明できる。となると動けない今、頼れるのは守護霊のみ。
「いけ!ディス」
ディスは鮫の素早さに対抗する為、そのままの姿で追いかける。三雲も人差し指を構えいつでも磁石玉を出せるように準備する。
しかし鮫はまるで水の中にいるかのような素早い動きで美しい曲線を描きながらディスを引き離しまだ曲がっていない手頃の電柱を泥化させ身動きの取れない諒たちの元へ落とす。
三雲は咄嗟に電柱に磁石玉を放ち、自分たちから少し離れた地面に別の磁石玉放った。そうする事によって磁石のように電柱と地面が引き合わされ諒たちに電柱が当たる事はなかった。三人はホッと一息する。
ガチン。その音に三人は鮫を見上げる。鮫は自分の牙と牙を噛み合わせたのだ。それが合図になり諒たちの地面は泥化が解け元のコンクリートへと戻る。
足が沈んでいた諒たちは完全に身動きが取れなくなってしまった。だが鮫はこの絶好の機会に攻撃して来なかった。
代わりにこの守護霊の使い主であろう人物が姿を現した。それは見覚えのある制服、見覚えのある顔立ち。
諒は忘れるわけがない。この幼馴染である鮫北 春芽を。
「お前だったのか諒。私は悲しいぞ」
「何言ってんだ、春。取り敢えずこの足のやつを解いてくれ」
「それは出来ない。諒の守護霊が話に聞いた仮面であるのだからな」
「ディスがどうかしたのか?」
「私はある男から聞いたんだ。仮面の守護霊は滅びの象徴。使い主諸共危険だとな」
「何言ってる俺は…」
「問答無用、最近付き合い悪いと思っていたのだ。悪は私が成敗してくれる」
あれ?途中から違うの入ってなかった?そう思った次の瞬間、鮫が分裂して小さくなっていく。
「この自由自在の泥鮫でな」
さらに追い詰められた。春芽は諒の話を全く聞かないし、この数では防ぐことはほぼ不可能。
「諒、負けたら大人しく私のいうことを聞いてもらうぞ」
春芽の声に応じて無数の泥鮫が諒に向かって襲いかかる。
「諒、これ使って」
ルキナから差し出されたのは盾だった。しかしこんな物すぐに泥化させらるのでは。
だが諒は盾についたあるものを見て見て二人の意図を読み取れた。
「ありがたく使わせてもらうぜ」
受け取った盾で小さくなった泥鮫の大群を受け止めるがやはり簡単に泥化されられてしまった。
「もうお前を守る物はないぞ。覚悟しろ諒」
「いや、覚悟するのはお前の方だぞ春」
「何?」
「自分の守護霊を見てみろよ」
春芽は自分の守護霊に目をやるとそこには赤と青の玉がそれぞれ一体ずつにつけられていた。
「三雲やれ」
「言われなくても」
諒の合図で三雲が指を鳴らすと磁石玉の能力が発動し泥鮫たちはお互いにぶつかり合い身動きが取れなくなる。
ディスの体を攻撃力のある筋肉姿に変え自分たちを捉えていたコンクリートを破壊し守護霊が使えなくなった春芽へと歩み寄る。
「大人しく俺の言うこと聞けよ」
肩をポンと叩き大人しくなった春芽を牧田が待つオカルト研究部の部室へと連れて行く。
「いや〜、待ちかねていたよ」
オカルトモードの牧田はドッシリと椅子に座り迎えてくれた。
「じゃあ今回のことの発端を聞かせてくれるかな」
机に両肘をつき聞く体制をとる。
「そうだな。まずは私はある日、黒羽 燈葉という男に出会った。彼は神と守護霊について教えてくれた。私は元々霊感もないし守護霊も持っていなかったが彼のツルハシのおかげで使えるようになったのだ」
「ま、待て!ツルハシって言ったのか」
「ああ、そうだが」
ツルハシといったらあの臓器フェチの神しかいないだろう。
「彼は何かを探しているようだったがそれは教えてくれなかった。で、どうなんだ実際、その仮面の守護霊は」
春芽はビシッと諒の守護霊を指差す。
「仮面の守護霊は危険な物ではありません。元は神具だったんですから。むしろいい物なんですよ」
「神具?何でそれが俺の守護霊についてんだ?」
「さあ?でもヘラクレスさんは仮面を持つ守護霊は運命を左右すると言っていました。何か意味があるんでしょう」
春芽は自分が燈葉に騙されていたことに気づきこれから諒たちに協力してくれることになった。
しかし燈葉の探し物、仮面の意味。謎は深まりこれからも春芽のように騙され襲ってくる者たちがいるだろうが、それを押し退け諒は燈葉を狙う。
諒はそれだけを考えていた。