待ち構えし者
いつもは屋上か教室で読書をするのだが、今回は放課後にしか行かない会議室へ寄り道せずに来た。
中には見知らぬリーゼント頭で短ランとボンタンといった一昔前のヤンキーの格好をした男が椅子にどっしりと構えて待っていた。
「君はここの生徒じゃないだろ。それにその恵方巻きみたいな頭はなんだい?今更そんなもの流行らないと思うけど」
一歩一歩近づきながら刀の形をした守護霊エンゲージメントを右手に修行で出せるようになった鞘を左手に構えた。
「髪型は流行りでなんな決めねーよ。自分が一番かっけェーと思った髪型にするんだ。他人の目なんて気にしないで、そこんとこ夜露死苦」
光沢のある髪をセットしながら燿堂に向けて何かいいことを言って、赤色のメリケンサックをはめた。
「おや、物騒なものつけてるね」
「刀持ってるお前には言われたないわ!まだメリケンサックの方がマシやろ」
「これは僕の守護霊だ。それにこんなところじゃあ銃刀法違反もないんじゃないのかな。いつもの学校とは雰囲気がまるで違うし」
「それは兄貴の人払いの鈴ちゅうやつだ。俺ら以外の部外者は入れんようになってるらしいぜ」
「なるほど……。つまり邪魔者は入らないんだね。なら早速始めようか」
「ま、待て待て。他にはお前ら……え〜と、京っていう奴らとその仲間たちしか入れねーんだぞ。天界の奴らは手だしできねーんだよ」
興奮気味に叫ぶ声を聞き流しながら天界で散々戦った神を思い出す。
少し変なだったが実力は本物だった。
だが逆に彼女が来れないことに燿堂は安心した。彼女がいたら獲物が全部とられてしまいそうだからだ。
「いいよ、それでも。僕は一人で戦うために来たんだから問題ない」
「一人?おいおい俺の他にまだ何人もの敵がこの学校に潜んでるんだぜ。それも全員気の使い手だ。お前一人でどうにかなるもんかよ」
気はどれも奇妙な力を秘めていて、それが完全に使いこなせると神と戦えるほどのものだ。
それが最低でも手紙に書いてあった場所の数と同じほどいる。
戦力を大きく見積もって考えると天界に攻め込んで混乱を引き起こせるほどだろう。
天界があの神が居る限り滅ぶことはないのでそれだけでも凄いものだ。人間界など軽々と滅べそうなものであるが、燿堂はそれだけの差がありながらも動揺した様子は一切ない。
むしろ微笑んでいるように見える。
「何とかしてみせるさ。だからとりあえずそのをどいてくれるかな」
一歩大きく踏み込んで射程距離に入ったリーゼント頭の男を目掛けて刀を横に振るって、それを軸とした連続攻撃をするが男は狭い会議室なので出来るだけ動かないようにして全てよけた。
「待て待て、短気なやつだな。例え敵でも命がけで戦う相手なんだから名前ぐらいは教えてくれよ。兄貴はそんなの関係ないだろって教えてくれなかったんだ」
そのぐらいなら何も問題ないし、それだけで彼が戦ってくれるならこのまま攻撃をよけるだけよりは面白くなるだろう。
「相馬 燿堂」
少し考えた燿堂はフルネームを名前も何も知らない男に教えた。
「燿堂か。俺は高垣 郷。見ての通り、ヤンキーやってたんだが、兄貴から頼みがあったんでお前の相手をすることになったんだ」
「兄貴?誰だいそれ」
「兄貴はここの理事長で死神でもあるネルガルや。そんなことも知らんでこの戦いに参加しとったんか」
「僕は自分の力を試すことが出来るならくだらない争いの理由なんかどうでもいいよ」
呆れを通らこして尊敬にすら値する。
燿堂はただ強くなりたかっただけに過ぎない。修行の時もアレスとは戦闘ばかりでろくに話などしていなし、京とは会ってすらいない。
「ほぉ〜。でも細かいことを気にしんのは男やな。それになんか……こうやる気をビンビン感じるわ。そんな燿堂はんに本気出すぜ」
メリケンサックをはめた拳を合わせて、金属音に近いものを鳴らして気合を入れると郷の顔は一変した。
ヤンキーはヤンキーでも間抜けな感じの顔であったが、額に皺を寄せて鋭い目で燿堂を見つめてきた。
「るあ!」
左足を前に出し、斜に構えて右足の踵は上げながら右の拳を真っ直ぐに放った。
「これは楽しめそうだね。でもそんなのじゃあ、僕は倒せない」
強烈な右ストレートで頬から血を流しながら新しく出すことができるようになった鞘を左から右斜めしたへと流れるように振るうが、郷はそれをバックステップでかわしてガラ空きとなった燿堂の左へと先ほどの右ストレートを放とうとしたがそれは鋭く光る赤い線に阻まれた。
「僕を舐めないてまくれ。隙なんて何処にもないんだから」
大きく外した鞘の攻撃は態と。
右ストレートを誘い出すためにした策略だ。
確かに郷の右ストレートは威力は高いが、届くまで時間がかかる。つまり隙だ。
修行の中でアレスから教わったこと。
隙をなくして隙を作れ。
既に燿堂の技となったそれで郷の腹の皮は剥がされて、服は血の赤で染まった。
「エンゲージメント。これで君は逃げられない」




