オカルト研究部の再開
家に戻った時、諒にはあの男が路地裏から消えていたことを知らされる。
仕留め損ねたのだろう。あんなのでも一応神だ。侮っていたのが悪い。ロキたちは市の探索、ルキナの周りの警備をするこになった。もちろん諒はルキナの護衛。
といっても学校で普通に生活しているのと変わらない気がする。普通に授業受けているだけ。最近変わったのは、たまに三雲が会いに来てくれること、牧田主催のオカルト研究部が活動を再開したこと。そして部員にルキナと三雲の二人が増えたこと。
あれから三雲は神のことを信じてくれた。ルキナとも仲良くなっている。
「じゃあ、オカルト研究部の活動始めようか」
オカルトモードの牧田登場。
「まぁ、活動と言ってもこれからは神が関係してくることが多かもしれないけどね」
「そうだろうな。奴らは守護霊使えるしルキアを狙ってる奴がいるから自然とこの辺に集まるだろうな」
「そう、そして今回はここで起きている怪奇現象を調べるこにしました。敵が潜んでいる可能性が高いので気をつけて行ってきなよ」
そう言ってホワイトボードに貼ってあるこの市のちょうど諒の幼馴染である春芽が住んでいるところでもあった。
「行ってきなよって、お前は来ないのか?」
「守護霊がいないのに行ったら足を引っ張りそうだしね」
牧田は残念そうな顔をした。守護霊と怪奇現象を見たかったのだろう。帰ったら土産話をしてやらなきゃな。
E市大井山町。怪奇現象が起こっているという場所だ。ここは大きなスーパーがあるぐらいで他に目立ったものはないだだっ広い町で今通っている学校もこの町の中にある。
「取り敢えず聞き込みでもするか」
諒たち三人が来たのはマルサメスーパー。ここなら人も多いし学生に聞けば噂ぐらいは聞けるだろう。散会した諒たちはいくつかの話を聞けた。
悪いことをすると地中に引きずりこまれる、急な事故の多発、電柱が妙な風に倒れる。
この話からするとツルハシ男とは別のものだということだけわかった。
ただし、これが神なのかそれとも守護霊の仕業なのかもわからない。聞き込みはここで終了して例の電柱のあるところへ向かう。話によるとまだ手をつけられていないし神の仕業ならルキナが気づくだろう。
電柱の元へ着き、どうして手がつけられていないのかがわかった。てのつけようがないのだ。壊れているところは一切ない。ただ根元の部分が傷一つなくねじ曲がって地面に横たわっている。
「この電柱かすかたが霊力があるな。もしかしたら守護霊の仕業か」
「神具が使われた形跡もないしそうだと思うよ」
取り敢えず牧田に報告してこれからどうすればいいか相談しよう。諒は頼れる男に電話している時、あるものを見てしまった。
背びれ。鮫のような背びれが地面から突き出てこちら近づいてくる。
「あれは何だ」
「どうしたの先輩?」
三雲は何故か俺だけを先輩扱いしてくれて頼られてる感じがして嬉しいのだが恥ずかしいからやめて欲しい。
「あそこ地面に何か泳いでる」
「何を言ってるの?ここはコンクリートで出来てるし水の中じゃないと泳げないでしょ」
しかし三雲もこちらに近づいてくる背びれを見つけ目を丸くする。
「ほ、ほんとだ。先輩の言ったとおり地面で泳いでる」
「諒、美雨あれは守護霊だよ。すごい霊力があそこから出てる」
そのルキナの声を聞き確かめるように背びれに視線を戻すと守護霊特有の霊力が溢れ出ているのが見える。
「あれがこの怪奇現象の犯人か。使い主の姿が見えないからあれを捕獲しておびき出すぞ」
諒の指示に二人とも頷く。諒はディスを出し、三雲は人差し指を突き立て磁石玉をいつでも出せるように準備する。
ルキナは純血の神なので守護霊は使えない。純潔の神というのは諒のように元人間ではなく初めから神として生まれてきたので守護霊は使えないのだ。
だが神の力がある。手を広げ見たことのない紋様が描かれた鈴を出しリンと鳴らす。神具のようだが特に変わった気配はない。
「これは人払いの鈴といってこの鈴の鳴る範囲は普通の人は入って来れないし、その範囲にいたとしても鈴の力で追い出すことがでいるの。どうこれで思いっきり戦えるでしょ。でもこれは私の力で創ったレプリカだからそう長くもたないから早く済ましてね」
ルキナの力というのは創造。頭に思い浮かべたもの。聞いたものや見たことあるものを創ることができるが、レプリカなので本物より力が弱くなってしまう。人払いが済んだルキナは次に大きな銀の盾を出しその影に隠れる。
諒は最初、足を引っ張られるのではないかと心配だったのだが、この調子なら逆に助けになるだろう。
「先輩!守護霊が消えた」
諒はルキナから目を離し先ほどまで守護霊がいたところを見るが三雲の忠告通り消えていた。
「気をつけろ。何処からくるかわからないから固まって全方向を見渡すんだ」
三人で背中を合わせ目を凝らし敵を探す。だが、一行に姿を現さない。上か?
諒は空を見上げる。その瞬間、足元に違和感を感じた。ズブズブと泥のように自分の足が沈んでいく。
足が不自由になり、それを見計らって守護霊が全貌を現す。
やはり、それは鮫。鮫は諒に突進する。ディスで流したが全ては流しきれず手が痺れるほどの攻撃をくらってしまった。
しかし妙なことに痺れはすぐに止み、次の感覚が諒に迫る。
それは今までに味わったことのないもの。
「り、諒。その手どうしたの」
ルキナは不安と恐怖の入り混じった顔で諒の手を見つめている。三雲も同様に。
このグチャグチャで奇妙な感覚がする自分の手を恐る恐る覗く。そこには水を含んだ田んぼの土のように泥々と化した両手があった。
「こ、これは一体……」
諒が手を震わせる中、鮫は自慢の牙をジュラリと見せびらかせ笑った。