実力
「変な双子だとは聞いていたがここまでとは、驚きだよ。それにかなり霊力もなかなか」
両手を広げて片足立ちのポーズを今だに続けている双子の様子を見ながらミリオは冷静に分析をして一つのことを決意した。
「君たち……ええと、左義くんだったけ?君は京を殺すように頼まれたんだろ。なら、一対一の勝負をしてみないか?」
「ちょ、何言ってるんですか!」
別に戦うことが怖いわけではないのだが気の使い方、それにさっき言っていた霊力。ミリオは遠回しにこの双子には勝てないと言ってたようなものだ。
「む〜、悪くない話だな。目的も達成できるし、何よりカッコイイ勝ち方だ。いつも二人一組でやってると卑怯だとか言われるからな」
しかもお相手はやる気満々でいらっしゃる。
「力試しだと思ってやってみな。勿論最初から本気でいかないと死ぬから頑張れよ。なに、心配することはない。ヤバくなったら助けに行くから」
双子に聞かれないように顔を京の耳に近づけて言い聞かせる。
「おい!何ヒソヒソしてやがる。やるのがやらねーのか決めろ」
「そーだそーだ」
隣の仁右も続くが、自分には出番がないのでやる気はなく棒読みである。
「分かった。やる、やってやろうじゃないか」
歯車を再び出して、気持ちも準備万端。相手が強いことはよく理解できたがここで逃げ出したら男じゃない。京の男としてのプライドが逃げ出そうとした足を踏ん張らせた。
「いい顔つきだ。だが俺の敵じゃねえーーー!」
先手必勝とばかりに先ほどと同じように守護霊のフヴインド火炎放射を吐き出して、京に襲いかかってくる。
咄嗟に歯車を今できる限界まで回転をさせてそれで防ごうとするが、威力に負けて吹き飛ばされてしまう。
「グアッ!」
背中から落ちて肺の中に入っていた空気が一気に吐き出される。
「何だよ。あの死神が手間取ってるからメチャクチャ強いのかと期待してたのにこの程度かよ。ったく、これじゃあ俺が弱いものイジメしてるみたいでかっこ悪いな。かっこ悪いのは大っ嫌いだが頼まれたからには必ず果たす。すぐに終わらせてもらうぞ」
自分の守護霊に手を置いて左義は霊力が高めるのが紘一でも感じ取ることができた。
「燃え尽きな」
ファイティンポーズをとっていた時とはまるで違う雰囲気の左義の守護霊はその低い声を合図に前よりも巨大な火炎玉を吐き出す。
「デカすぎだろ」
それは廊下を埋め尽くすほどの大きさで火炎放射とは違い、避けることが不可能。
仕方ないのでもう一つ歯車出して更に回転数を増して受け止める。
今度のは大きさのせいで威力が低下しているのかそれとも到達するまでの時間が少なくて京が足を踏ん張るための間が取れたからか吹き飛ばされずに済んだ。
「お、重い……」
火炎放射を弾丸とするならこれは鉄球。今の京の実力では弾くことはできない。
「京、後ろだ!」
どうにかしてこの状況を打破しようと汗を流しながら頭もフル回転させていると、見守っていた紘一からの注意でチラリと後ろを振り向いてみると炎が柱状になって生き物のように迫ってきていた。
「しまっ……」
後悔するよりも早く、炎が京を捉えて言葉を遮った。
「きょ、きょーーーーーーーーーう!」
何もできない自分に苛立ち、拳を強く握りしめながら見ていた紘一は爆発と同時に大声で叫びそれは廊下だけではなく学校中に響いた。
しかし、左義はそこから動こうとしない。煙の中に人影があるからだ。
それも一つではなく二つ。正体はあいつしかいないと左義でもわかる。
「何のつまりだあんた。先生が首突っ込んできてんじゃねーよ。屋上に行こうとした時も邪魔しやがって」
煙が晴れて何処か汚れていないかと服や金髪を気にしている男。通せんぼされていたのではなく通せんぼしていた男。
冥界の神である師匠からの頼みで教師としてここに潜り込んできたミリオ・ヴォルベルト。
「何ってそれはこれからできる未来の可愛い弟子を助けただけだ。それに俺はルールなんて言ってないだろ。だったら途中で助けるのは俺の自由だ。違うか?」
「チッ!分かった。ただその代わりにお前が俺の相手をしろ。普通の先公じゃないことはバレバレなんだよ」
鋭い目をして睨んでくる左義は舌打ちをして怒りを露わにするが、ミリオは平然としていて何の動揺もない。
「いいぜ。何なら二人でかかって来いよ。京はそこで見てな」
「は、はい……」
助け出された京は所々黒くなっていて、左手で横腹を痛そうに抑えながら頷く。
それを見た紘一は無事だったのかとホッと安堵のため息をついた。
「一人で俺らの相手をしようってのか?いい度胸だが後悔するなよ」「なよ!」
二人と二体の守護霊。色以外はあまり違いはなく白黒にすると間違い探しの問題なのかと勘違いしてしまうほどの双子はそれぞれの気を出してお互いは違う存在なのだと主張しながら迫ってくる。
「後悔なんてもうしないさ。あの人と約束したからな」
それは生徒に見せるための背中ではなく、戦う者の背中。
自然と安心になってくるその不思議な背中はネクタイを緩めて、前へと進んだ。




