イケメン先生
「あの先生どう思う紘一」
本人からの自己紹介が終わり、休み時間になると女子からの個人的質問の集中砲火をなだめている金髪の新担任を京は真剣な顔つきをして見つめている。
久しぶりにちゃんとした会話な気もするが声からはそんな穏やかなことではないらしい。
「四年前に日本に来た外人先生だろ。それでバスケが好きでこれから俺たちの担任になる。性格は良さそうだし、イケメンだよな。千冬もそう思うだろ」
京の後輩をちゃん呼ばわりする事件で怒りを露わにしていたが、間が空いたおかげですっかり落ち着いている千冬に聞いてみるが先生に質問攻めするグループに入っていないことから真意は分かる。
「そうね。確かにイケメンの部類に入ると思うけど私のタイプじゃないわ。それに年上だし先生なんだから恋愛対象にはならないわよ」
「そうなんだ〜。なら千冬が好きなタイプってどんな人?具体的に教えてほしいな〜」
気持ちをわかっていながらからかう紘一はニヤニヤと質問する。
「わ、私?そうね〜、優しい人とか頼りになる人かな」
顔を赤くしながらチラリと京の横顔を見つめるが当の本人は彼女の気持ちに気づかないで教室から出て行く先生を見つめていた。
「ちょ、ちょっと京!私の話聞いてた」
折角、勇気を振り絞ってそれらしく分かるに言ったのだからせめて聞いていて欲しかった千冬は眉をひそめて京に問いただす。
「ん?ああ、聞いてたよ。千冬は猫より犬派ってことなんだろ?」
「どうやったらそんな風に聞こえるのよもう!」
期待していたこととはまるで違う答えが返ってきたことにイラついて、千冬は怒りをのせて京の脛を蹴った。
「ぬあ、いっった!何で蹴るの〜〜〜」
痛みに耐えられなかった京は床をゴロゴロ転がって蹴られた部分を抑えるが、なかなか痛みが沈まないらしく暫くそのまま押さえつけて険しい顔して耐え続ける。
「ふん!京が悪いのよ。そこで反省してなさい」
後輩をちゃん呼ばわりするという事件の時とは違う怒りで、今回は頬を膨らまして真意に気づいている紘一には可愛らしく見えた。
「ほら、あのイケメン先生のことはどうでもいいだろ?サッサと追いかけて謝ってこいよ」
突然、痛みが引いたらしく真顔に戻った京は両手を床について足を斜め上にあげると両手の力だけで飛んで見事に着地してみせた。
「それよりもあの外人先生……名前は確かミリオだったけか?あいつのところに行かないとな」
「お、オイオイ。ホントにどうしたんだお前?あの先生そんなにおかしな事したか」
最近いろいろとあっていきなり現れた先生に警戒するのは仕方ないことなのかもしれないが、それではこれではあまりにも千冬が可哀想で見ていられない。
椅子から勢い良く立ち上がって大声をあげるがそれでも京の考えは変わらないらしい。顔が真剣そのものだ。
「うむ。どうやら紘一にはあの者の気が出ているのが見えなかったか。まだ守護霊を手に入れて日が浅いから仕方ない」
二人を見かねたレックは急に話に割って入ってきたが先ほどのように驚くことはない。
「気?もしかしてあの人も守護霊を持ってるのか?だとしたらまた理事長の差し金……」
暗殺者やオカルト研究部部長などと戦ってきたが今度は先生を相手にしなくてはいけないのかと少し考えたがそれは京の一言で否定されることになる。
「それはない。もしそうだったらまず俺たちに警戒されないように少し時間が経ってから仕掛けてくるはずだし、気なんて自分が敵だとアピールしているようなもんだ。俺たちの敵の可能性はないだろうな」
その正確すぎる意見に納得せざるおえなかった。しかし、それでも千冬を追いかけない理由が見つからない。
「それで、あの先生のところに行くのか?どこ行ったかもわかんないのに」
先生が行くところなど職員室とかが相場だろうがそれが絶対とは限らないのだが、それは必要ないと首を横に振る。
「場所は屋上だ。急いで行った方がいいだろうな。教員って職業は忙しそうだし」
「待てよ、どうして分かったんだ」
何の説明もしないで一人で行こうとするがそれでもモヤモヤしたものが残って胸の底が気持ち悪い。
「さっきも言ったがあのイケメン先生は気を使っていた。多分俺たちを試しているんだろうな。気をはっきり見極めれるかどうかの。そしてその気で“理事長のことについて話がある休み時間に屋上に来い”と書かれていたんだ」
「気で文字を?そんなことできるのかよ」
「できるが相当の実力を持っていないとできない技だ。味方だということを願って屋上に向かうしかあるまい」
見えていたらしいレックも悟ったように呟いた。
「なら俺も連れてってくれないか?どうせ巻き込まれるならとことん巻き込まれたいんだ。お前とは腐れ縁だしな」
これからの戦いのこととか、理事長のこととか、色々なことで頭の中がこんがらがっていたがレックの一言でそれは吹き飛んで吹っ切れた。
理事長が悪さをしているのならそれに対抗する力を持った者たちが戦う。その一人が自分だっただけだと自分に言い聞かせていつもの調子を取り戻した紘一の目は迷いなどない。
その変わりように気づいた京はハッとした後に口の端を吊り上げて白い歯を見せた。
「ああ、じゃあイケメン先生に会いに行こうか」
休み時間終了まではあと十分。二人は急ぎ足で目的地まで歩みを進め始めた。




