来訪者
「なあ、紘一知ってるか?今日新しい先生が来るんだってさ。お前は男か女どっちだと思う?俺はな〜」
突然現れて机を叩いて必死に頭を回転させる京だが紘一はそれどころではなかった。
「京!昨日話しただろ?俺も守護霊持ちになったんだ。しかも噂じゃあ、曜二先輩は誰かに首を切られて殺されたらしいぞ。首だぞ首!たただ事じゃねーよ」
あの時の戦いの時とは打って変わってブルブルと体を震わせる紘一だが京はそんなこと御構い無しにキョトン顔で見つめてくるだけ。
「多分、次に狙ってくるのは俺だよ。だって俺も守護霊持ちになって理事長の仲間の先輩を倒したってことは本格的に関わっちゃてるからな〜。絶対目つけられたよ」
頭を抱えてどうしようと呟く姿を見て励ますように肩に手を置いた京は顔を上げた紘一に親指を突き立てた。
「何が!何がいいんだよ。俺狙われることになったんだぞ。これから理事長倒すまで戦うことになったんだぞ」
涙目で立ち上がって京の体を激しく揺さぶるが突き立てた親指は保ったまま真顔をし続けた。
「はあ……はあ……。本当に俺はどうしたらいいんだ。まだ守護霊使い慣れてないし、今襲われたら絶体絶命だよ」
あの時は流れで何とかなったが次も上手くいくとは考えられない。
「そう嘆くな。お前には俺たちがついてるだろ。春ちゃんのルックミストの中にいれば安全だし、怪我をしても千冬が治してくれる。それにいざとなったら燿堂が助けてくれるさ……多分」
最後の方で目線を左下に向けて、心なしか突き立てている親指も元気が無くなったように見えた。
「多分!確証ないなら出さないでいた方がマシだったよ」
しかしそんな二人の話の横から入ってきたのは京の背後から迫ってきた手。
「京。後輩をちゃん呼ばわりするなんて、いつそんなに仲良くなったの?」
声はいつもの千冬なのだが紘一から見える表情からして怒っているのは確実。肩に乗せている手もギリギリと握力を強まっている。
「ひ、紘一ヘル……」
危険を察知した京は必死に助けを求めようとしたが引っ張られる力で服が首を締め付けてそれ以上の声を発することはできなかった。
「ごめんね紘一。ちょ〜〜〜とこいつに聞きたいことがあるから話は後にしてね」
「は、はい!」
その横顔は狩りをする時の狼のようで自然と紘一の体を膠着させた。
「いつも騒がしいなお前らは。そこがいいところでもあるのだが」
ふと渋い声が聞こえる机の上に視線を向けると、そこには京が置いていったであろうレックがいて普通に喋るっている。
「ちょ!レック、ここは教室だぞ。他の人に声が聞こえたらどうするんだ」
もし見つかったら喋る指輪として注目されるだけではなく、高確率でパニックになる。学校の七不思議を飛び抜いてこの街の都市伝説として残るだろう。
だがそれは困る。今は理事長との対決が控えているからできるだけ目立ちたくはない。
「安心しろ紘一。私の声は守護霊を持っている者にしか聞こえない」
「そっか……なら安心だな」
理屈はどうなのかは知らないがそれならあまり騒ぎにならないで済みそうだ。
「でも、それって俺は指輪に向かって独り言をしていることになるのかな」
「そうなってしまうな」
数秒ほど今自分がどんな目で見られているのか考えたがある程度のところで思考が停止した。
「まあいい。それより言いたいことがあるんじゃないのかレック」
普段、良く家に遊びに来る京と共に来るというかはめられているレックは余計なことは喋らないクールな感じでましてや紘一に迷惑のかかるこの場所でわざわざ言うとなると余程言いたかったのだろう。
混乱していた頭がまとまってきた紘一は今後のことよりそれが気になった。
「そうそう。さっき京が言っていたことだ」
「あ〜、あれのことか。結局、励ましてくれてるのか不安にさせようとしてるのかわかんなかったけど」
曖昧な言葉は逆に不安にしかさせない。
「京はただ嬉しかっただけさ」
「嬉しい?何がだよ?俺が散々酷い目にあったっていうのに」
「だが守護霊を得て一人の神候補になった。京にとっては仲間が増えた……いや、お前は最初から仲間みたいなものだったから成長が嬉しくてたまらなかったんだろうな。お前からの電話がきた後は守護霊の特訓をしていたからな」
「そっか……」
何というか、らしいなと思った。
京は決めたと思ったらその日ではなくて、一秒後に動くタイプだから昔と全く変わっていない。いや、この性格は一生変わらないだろう。
昔の京を思い出して、自分も仲間と思ってくれていたのだということを噛み締めていると担任の先生ではなく、見慣れないスーツ姿の男前先生にクラス中は戸惑いつつも席についた。それは千冬も例外ではない。
一応レックは京に返してから紘一は座った。
目を惹かれたのは何処で買ってきたのかと聞きたくなるような真っ白なスーツにネクタイ。さらに外国人なのか髪は金髪。
そんないかにも美男子な先生は徐にチョークをとって、慣れない手つきで黒板に自分の名前を書いた。
「休みになった羽原先生の代理として担任になるミリオ・ヴォルベルトです。皆さんこれからよろしく」
教室、特に女子が賑わったが彼女たちは彼が鋭い眼差しで京たちを見つめていたのは知る由もない。




