聖者の微笑み
「ネルガルさん。病院では酷い目にあったそうですね?大丈夫でたか?」
ここは学校のあるところにある本当の理事長でネルガルはその部屋のど真ん中に置いてある真っ赤なソファで寝そべっていて、いつもとは違う雰囲気で気になった自称聖者が話しかけた。
「大丈夫じゃなかったらここにはいねーよ。それでどうだった?あのシャボン玉については何か分かったか」
「いえ、それがどうもおかしい点が多くてですね。僕が考えるには守護霊の暴走だったのではないでしょか」
「よりにもよって俺がいる時にか。だとしたらなんとも運が悪い話だ。俺は使えなくなったゴミを処分に行っただけなのに妙なシャボン玉に追っかけられて、自覚のない幽霊に死んでることを教えるなんて面倒なことさせられるとは」
思い出すだけで腹の底がムカムカする。
「そうは仰いますが、貴方は本当にそう思って言っているのですか?」
「当たり前だろ。誰が好き好んでシャボン玉と子供の相手なんぞしなくちゃいけねーんだ」
「そちらではありません。曜二さんのことです。あの人はよくやってくれたと思いませんか?」
「さあな。あいつは最後まで何がしたかったのかわからなかったし、あの紘一という生徒に返り討ちにされた負け犬だ。そんな奴をどうとも思わん。ただいろいろとおかしな奴ではあったな」
病院での最後の言葉。あれからして敵のスパイだった可能性もあった。
「それで?俺が頼んでおいたことは調べてくれたか」
曜二は敵と繋がりがあったのか?あのシャボン玉を使う守護霊の主である神候補はどんな奴なのか?
病院から帰ってすぐに彼に依頼して調べさせて、二日ほどして今この場に姿を現したとなると話があるとしたらその報告以外あり得ない。
「勿論して調べておきました。こういうのは疑うようであまり気は進みませんでしたがね。まず曜二さんについてですが、裏切ったという貴方の考えはないと断言できますよ」
「どうしてだ。あんな話、守護霊の力を知ってないとしないだろ。偶然とは思えん」
「そうです。偶然ではなかったのですよ。曜二さんは貴方は確かにシャボン玉を出す守護霊を見たことでしょう。しかし、敵とそこで協定を結んでいたとするなら無抵抗で貴方に殺されるのは考えにくい。病室に敵をかくまって貴方を襲うことだってできたはずなのに」
だがそれは行われていない。もし曜二が寝返っていたらの話で自称聖者の妄想に過ぎないが、この妄想からして曜二は裏切り者でないという線が濃くなってきた。
「そうか……。まあ、どちらにしろ死んだ奴のことなんてどうでもいい。シャボン玉を使う神候補の正体は掴めたのか?」
「いえ、それが私の推測からするにその人は自分に守護霊がいるなんて気づいていないようなんですよ」
「それはどういうことだ?」
「守護霊の暴走したのだと私は考えています。貴方のことを危険人物とみなした守護霊が勝手に能力を発動した……としか」
「一体どうやってそんな考えになったんだ」
「それは私の守護霊の能力に関することなので教えられませんが、この情報に偽りはありませんよ」
実は京たちに入られたもう一つの理事長室に金で雇ったお喋りな暗殺者を仕向けることができたのは彼の助言があったからだ。結局、やられて逆に奴らの仲間となってしまったがそれはどうでいもいいことだ。
そういった救われた事実があるのだが彼の能力を疑うわけではないのだが、あまり説得力がない。
調べている手段が分からないからか、彼の性格からなのかは不明だがどちらにしろ今は話を信じるしかない。
「分かった。お前のことはちゃんと信じているつもりだ。それなりに実績があるからな」
極端な話をすると手下が全員やられたとしても指輪とこの男さえいれば計画は達成できる。それほど役に立つ人材なのだが雲のように掴み所がないのが唯一の欠点といえば欠点だ。
「それにしてもさっさと邪魔な奴らを消さないとな。俺が理事長だからって生徒でも容赦はしないつもりだ。用意はしておいてくれたか?」
今まで何人もの刺客を送ってきたが誰一人倒すことができないままでいるがもう我慢の限界だった。
それはいつ指輪が危険に晒されるのかと心配で安心できずグッスリと眠れていないからと何の成果もあげられない手下たちの不甲斐なさからきている。
「ええ。既に送っておきましたよ。そろそろ戦闘に入っていると思いますよ」
「誰を送った。生半可な奴だとまた返り討ちにされるのがオチだぞ」
次々と仲間が増えてきている彼らは一人一人が厄介な力を持っていて、その力は今までの戦いで証明されている。
「例の双子ですよ。ネルガルさんが病院へ行っている間に到着したので早速仕事をしてもらおうと思いまして」
「お前本当に聖者か?裏でコソコソする鬼畜野郎の方が似合ってると思うんだが」
「何を言ってるんですかネルガルさん。私は神である貴方の為ならどんなことでもする聖者ですよ」
聖者はニヤリと微笑みを見せた。




