闇に巣食うツルハシ野郎
報告
最近、ユノ・ルキナの住んでいる市内で殺人事件が起こった。調べによると傷は浅いのだが臓器が全て抜き取られていることが判明。
警察は愉快犯として捜査しているが我々は神が犯人として捜査している。そこで現地にロキたちを送るので神候補である国崎 諒と協力して犯人を捕まえて欲しい。
ヘラクレスより
これは三雲と出会った夜、自分の部屋き帰った時に読まされた手紙でヘラクレスというのは神の中で偉い人らしい。
「でもなんで俺がこんなことを?」
「それは神になるための条件だからかな?」
「疑問を疑問で返すな。てか条件なんてあるの?」
「あるよ。それぞれの神て違うんだけど共通して言えるのは守護霊がいることとそれに似合う力をもっていること。ヘラクレスさんはこの殺人犯を諒に捕まえさせることで力をつけようと考えているだよ」
つまり神は霊が見えて守護霊がいる三雲も神候補であるということだ。
「なるほど、一種の特訓みたいなものか。で、神になるためなんだから他にも条件があるだろ。教えてくれよ」
「それは規則によって教えられない。今言ったのは初歩的なものだから良かったけど」
「わかった。そっちにもいろいろ事情があるだな。でも犯人を捕まえるにしても具体的にどうすればいいんだ?」
「さあ?」
「だから疑問を疑問で返すな」
結局、この日はこれで解散した。
次の日の夜。
やはり三雲は待っていてくれた。今日は学校が休みだったので三雲は守護霊の練習をして少し扱えるようになったらしい。諒にそれを見せてくれると言ったのだが諒はそれを優しく断り殺人事件のこと、三雲が諒と同じ神候補だということを話した。
しかし三雲は信じてくれず何処かへ走って行った。体力の限界まで。
「ここはどこ?」
夢中になって走り過ぎてどこに来たのかすらわからない。薄気味悪い路地裏で早く帰りたい。奥の方から音が聞こえた。
「誰かいるの?」
そう言って角を曲がるとそこはツルハシを抱えた作業着姿の男と女がいた。
しかし女は息をしておらず腹の上に彼女のものであろう臓器が転がっていた。
男は三雲に気づきツルハシを引きずりながら近づいてくる。逃げようと頭の中では思っているのだが足が動かない。
そして男はツルハシを高く上げ振り下ろ…
「お前か。殺人犯ってのは」
止めたのは守護霊を出している諒。それが見えるのか男はツルハシを振り下ろすのをやめる。
「いや、違う。これは殺人ではなく臓器採取だ。俺はいわゆる臓器フェチでな。いい女を見つけるとそいつの臓器をコレクションに入れたくなるんだよ」
「殺人だろそれ。倒してヘラクレスさんにつき渡してやるよ」
ヘラクレスの名を聞くと男は眉を動かす。
「なるほど、お前が噂の神候補か。だが神となった俺に勝てるか?」
「俺は勝つために戦うんじゃない。守るために戦うんだ」
「綺麗事を言うな」
勢いよく振り下ろされたツルハシは諒に躱され虚しく地面に突き刺さるが、その地面の中から突如として水道管が現れた。
「結局は戦いだ。戦いに種類なんてないんだよ」
これが神の力。臓器もこのように出したのだろう。続けて何度もツルハシを振るうが諒にはかすりもしない。
当たる訳にはいかない。なぜならこれに一発でも当たれば臓器を抜き取られ死んでしまう。
三雲はこれを避けられそうもないのでディスで持ち上げて高いところへ避難させる。しかしディスのいない諒は攻撃手段がなく避けるのに精一杯。
「私の守護霊で助けなきゃ」
磁石玉。磁石の性質をもつ守護霊。狙いはツルハシ、玉は赤色。
人差し指で放ったそれは真っ直ぐ飛んで行った玉はツルハシの鉄の部分に命中。
次は青い玉、狙いは男の頭上にあるパイプ。これも狙い通りに命中する。
そしてイメージを膨らませ守護霊の力を引き出す。すると油断していた男のツルハシは手が離れ磁石玉の力でパイプに引っ付く。
「ナイスだ三雲」
三雲を下ろしディスは諒の元に戻り華奢な体は筋肉で覆われていく。
「行けディス」
ディスは変化したその体で男を何度も殴り壁へ吹き飛ばすし、そのまま男はぐったりしたまま起きる気配はない。
「気絶したか」
諒がそう呟くとほっとため息がこぼれる。
「ありがとな。三雲」
「え?」
「だって俺を助けるために戦ってくれたんだろ」
「べ、別にそんなじゃないわよ。あまりにも無様だったから見てられなかっただけ」
「そうかよ。まぁ、詳しい話は後にしよう三雲」
携帯を取り出しルキアを通しロキたちにここに来るように指示してこの場を離れる。ここにいたら何かと怪しまれるし、神のことを一般の人に気づかれてはいけない。
「行きましたか。どうしたあの男」
現れたのは黒いマントを羽織った男。
「最強と名高い仮面の守護霊だから期待してたのだが思ったより弱くてがっかりだ。あの仮面は必要ない」
ツルハシ男はディスの猛攻撃を受けながらかすり傷一つない。
「ではどうします」
「俺は例の物を探す。あいつは戦いというぬるま湯にすら浸かったことのない野郎だ。熱湯で溺死する気分を味わえてやれ」
「はい。これもあなた様、黒羽 燈葉様が唯一無二の存在になるため」
闇に巣食う闇は光を貪る計画を立てていた。




