灰色の手
「じゃあお前は理事長に金で雇われて俺たちを殺しに来たのか?」
影山を京の部屋で尋問したら、ただ金で雇われただけで理事長の目的は知らないと言った。このお喋りが嘘をつくわけないし、本当にそうなのだろう。
「でもあれだな。こういう諜報員的なのが俺たちには必要じゃないのか?」
実際、理事長が本当に事件の犯人かわかっていないし、敵がどれくらいいるのかもわからない。
「オイオイオイオイ。それは僕を雇いたいってことかい?確かに暗殺だけじゃなくて幅広く仕事やってくるけどたかが高校生にこの依頼料が払えるかな」
影山のポケットから出されたチラシを見せてもらうとゼロのオンパレードだった。一番安いものでも手が届かない。
「このくらいならどうにかなるかもしれません」
「「へ?」」
春美の言葉に両者は驚いた。しかしそんなことは気にせず、携帯電話を取り出し数分話すとその十分後に京の家の近くに黒い車が止まり、そこからアタッシュケースが幾つも影山の前へ運ばれ、その鍵を開けて中身を見せた。
「これでどうですか?」
「受けます。どんな仕事でも」
「お前はプライドがないのか!」
「そんなもの親に渡すプリントと一緒に捨てた」
「いや、それ捨てたら怒られるやつだから!」
と、まあこんな感じでお喋りな暗殺者、影山 悰二は仲間となった。
後日、紘一と千冬にこのことを説明したが、千冬の機嫌は一行によくはならなかった。
「仲間が増えたのはいいんだけど、俺だけ守護霊出てないからあんまり役に立てないな」
紘一は申し訳なさそうな顔をした。
「いいんだよそんなこと。お前も条件は満たしてるからいつか出せるんだ。その時はお願いするぜ」
「ああ!」
一人は元気になったようだが、もう一人は鬼の形相である。とりあえずケーキバイキングでごまかそう。
京は財布の中身を確認した。
「はあ、めんどくさいな」
紘一は忘れ物をした為、一人で夜の学校に訪れていた。
教室は少し遠いので近道を歩いていると、何か嫌な感じがした。何かが蠢いているようだ。
しかし後ろを振り返っても何もいない。
「気のせいか…」
急ぎ足で教室へ向かおうとしたが、紘一の足は動かなかった。
精神的にダメだったわけではない。物理的にダメだったのだ。そう、まるで誰かに引っ張られているようだ。
紘一は冷や汗をかきながら、ゆっくりと後ろを向いた。
するとそこには床から生えた手が紘一の足を引っ張っている姿があった。
「な、なんだこれ?」
手は灰色で冷たく、まるで死体の手のようだ。
「クソ!離せ」
足を激しく上下に動かし、引き剥がそうと頑張るが手は一行に離れない。それどころか掴む力が強くなって骨に痛みが走る。
紘一は痛みに耐えながら、思いっきり拳を叩きつけた。
すると灰色の手は離れて、スゥーと床に消えていった。
「一体なんだったんだ?」
忘れ物なんてどうでもよくなっていた。今はここから逃げ出したかった。とにかく紘一は校門へと走った。
だが校門にはあの灰色の手で覆われていて通れそうにない。裏門も同様だった。
「これは…閉じ込められた」
逃げ場なし、味方ゼロ。敵不明。打つてなし。
とりあえずできるだけのことをするこおにした。
まずは灰色の手を調べる。学校を走り回って、どんな行動をするかを調べた。
次にこれを操っているものを探すこと。紘一はこれが守護霊だと思っていた。ただの手ではないし、霊気を感じるからだ。
しかし、探すと言ってもそう簡単なことではなかった。とにかく学校を走り回って灰色の手が多く出現するところと霊気が強く感じるところを調べた。
これはレックに聞いた話だが、守護霊は使い主と近いほど力が強くなるらしい。つまりこの場合、灰色の手が多いほどその使い主に近いということだ。
その法則でやっとの思いで来たのは、オカルト研究部の部室。一回廃部したが最近になって復活した曰く付きの部活だ。
紘一は戸を開けようとする。どうしてかわからないけど心の底にある何かがそうさせる。
不安感を抱きながら戸を開けた途端、紘一は宙を舞って中庭へと落ちて行った。
落ちる途中で見えたのは戸の先で、灰色の手が一直線に固まって一つの大きな手となっていた。あれが紘一を突き飛ばしたのだ。
そう悟った時にはもう地面に着いていた。
落下の衝撃は草や木がクッションとなり抑えられて怪我は最小限で済んだ。
しかし、このままでは終われない。あんな手ごときに負けてはいられない。
紘一の左腕に真ん中に四つの穴が空いている丸い盾が出現した。
勇気。勇気。勇気。
彼に込み上がってくるこの気持ちは誰にも止められない。
紘一は勢い良く、学校の中へと飛び込んだ。もちろん目的場所はオカルト研究部の部室。




