お喋りな暗殺者
彼は事故の件で警察に事情説明をしている京を見つめていた。そしてパーカーを被り、事故を聞きつけやってきた人だかりの中へ消えていった。
「はあ〜。昨日は大変だったな」
昼休み、京は春美と食堂で待ち合わせしていた。これからの話を詳しくするためだ。
「いえ。慣れっこです」
激辛カレーを表情ひとつ、変えずに頬張った。
「やっぱりあれか?守護霊の代償か」
彼女の守護霊の能力は運。それをもの凄くよくするというもので範囲は狭いが強力なものだ。
しかし強力だからこそ、リスクが存在する。それは京たちが見た青い気。あれは守護霊が使いこなせていない場合、もしくは春美のようにリスクとして発生するもので守護霊の能力と反対の能力が働く。
今回は春美の運の能力が裏返って、運悪く鉄柱が降ってきたのだ。
「そろそろ理事長のことを調べようと思うんだ。そこで春美の守護霊で安全に進めるように手伝ってくれないか?」
春美の運の能力があれば、もしもの事態の時に役に立つだろうとレックと話し合って協力を要請することを決めた。
「はい、わかりました。でも調べるってどこをですか?」
「理事長室さ」
春美の前に置いてあった激辛カレーは綺麗に平らげられ、皿の上にはスプーンだけが存在していた。
放課後。二人はこっそりと理事長の前へと来た。ドアには鍵がかかっておらず、容易に忍び込めた。
これも春美のルックミストの能力のおかげだろうか?だとしたらこの力は計り知れない。
「にしても綺麗に整頓されてるな。まあ当たり前か一応お偉いさんだからな」
中は思ったより広く、茶色の家具で統一されている。本棚にはこの学校の歴史が書いてある本などがあった。茶色ではない家具は黒の椅子とソファーぐらいで特に変わったものはなかった。
机の引き出しに何か入ってないかと、鍵がかかってあるところまで調べたが目当てのものは見つからなかった。
「オイオイオイオイ。人の部屋を漁るなんていい趣味してるね。そんなことされたら君たちを殺さなくちゃあいけなくなるじゃないか」
にやりと笑うその髪を刈り上げている男は高級そうな黒いソファーに腰をかけ堂々と自分で入れたらしい紅茶を飲んでいた。
「お前いつの間に…」
全く気配がなかった。それにこの余裕。よっぽど自信があるようだ。
「よく考えてご覧よ。この誰もが知っているような理事長室に君たちが探しているようなものがあると思うかい。可能性はどう考えも低いだろ。それとここを荒らしたってことは君たちの処刑は決まったんだぜ」
「処刑だと…」
京は背中に春美を隠す。
「そうだ。そして処刑方法は暗殺だ。今は帰っていいがその後はビクビクしながら過ごすんだな。俺が殺しに行くからな」
彼はパーカーを被ると一瞬で姿を消し、机の上には名刺が置いてあり、その名刺には暗殺者 影山 悰二と書かれていた。
「奴はいつどこで見ているかわからない。紘一たちには迷惑かけたくないから黙っておこう。俺たちがあいつを倒して、その後に話すんだ」
そう決めた京と春美は毎日警戒を怠らなかった。しかしそれは突然訪れた。
「最近、千冬が機嫌悪くてさ。まあ、あの影山っていう暗殺者がいるから関係性がバレるのはまずいから仕方ないんだけど、どうしたら機嫌直るかな春美?」
振り返って、返事を聞いてみるがそこに春美の姿はなかった。代わりに守護霊のルックミストだけがあった。その霧は京を守るように包み込んだ。
その後に後ろから二発の銃弾が飛んできた。だがそれは紙一重で外れた。
「それが彼女の守護霊かい?おもしろいね」
銃弾が飛んできた方向から声がする。あの影山という男の声だ。
「お前あの時の…。もう来たのか」
「当たり前だよ。罪っていうのはね、償わなければ消えないんだよ。そう決められてるのさ」
声は聞こえるが、相変わらず姿が見えない。とりあえず歯車の守護霊、マッドネスを発見させ何発か飛ばしたが手応えはなかった。
「無駄だよ。僕は暗殺者だよ。そんなの簡単に避けられるさ」
「避けたってことは幽霊みたいに通り抜けたわけじゃあないんだな。なら、まだ俺にも勝算はある」
再び歯車を呼び出し今度は投げるのではなく空中に静止させた状態で回転させて気を放出する。その時にはもう春美の霧は消えていた。
「ん〜。どうやら君を守る忌々しい守護霊は消えたようだね。確実に銃で殺したいんだけどなんか壊れたらしくてね。これもあの女の守護霊の仕業っぽいね。全くもって厄介なことこの上ないね。でも安心してくれこんな時のためにナイフを持ってきてあるんだ。これで切り刻んであげる…って聞いてる」
「ああ、聞いてるぜ。あんまり長いもんで目が冴えたぜ。お前が見えるくらいにな!!」
京は影山を見つめる。偶然ではない。もう彼の姿は、はっきりと見えていた。後ろには消えていた春美の姿もあった。
「な!嘘だ。僕の能力が…」
影山はナイフを落として後ろへ一歩下がる。よほどその能力とやらに自信があったのだろう。
「気づかなかったのか?お前の能力、つまり気は俺の回転力によって吸い取られていたんだぜ」
まだ回り続けるその歯車には紫色の気がまとわりついていた。
「お前の敗因は喋りすぎだということだ」
気がまとわりついた歯車は宙に投げ、左手から出した歯車を影山に向けて思いっきり投げた。
「あのお喋り野郎、呆気なく倒されたらしいぜ。まったく口を動かすぐらいなら殺すために体を動かせってんだ。あの役立たず」
「これも神が定めた運命なのでしょう。そう彼を責めてはいけません」
「神ねぇ、まあいいだろう。処分は面倒だしお前が言う通りに見逃してやるよ。だがな俺たちの計画を邪魔する虫は徹底的に潰す」
運命の歯車はここから大きく動き出す。




