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神と仮面のスピリチュアル   作者: 和銅修一
クレイジーギア・ダンス
33/52

治療の指

 京たちに逃げられた後、燿堂は一応中庭を調べることにした。といってもゴミしか出てこず、ただの清掃活動となってしまった。

「確か噂の木はこれか」

 妙か噂は燿堂の元にも届いていた。いろんな噂がある為、夜中ここに噂を確かめに来る生徒が来るようになった。

 が、それは燿堂がすべて片付けた。校長先生からもこのことは任されているので手は抜かない。いや頼まれていなくてもやっていただろうし、手も抜かないだろう。気に入らないことは全て排除する。そのことなら睡眠時間など惜しく無い。

 そのおかげで最近は寝不足だ。なのでは屋上で昼寝をすることが多くなった。

 ふと、いつも使っている屋上を見て木に触れた。暖かい。まるで生きているようだ。

 そして自分の中からも暖かくなつまていき、何かが引き出された。それは木のてっぺんまで飛んで燿堂の元へとゆっくり降りて来た。

 これは木の不思議な力によって発現した燿堂の守護霊、闘気の刀。彼は後にエンゲージメントと名付けた。




 燿堂には京たちとは違い、守護霊のことを教えてくれるものはいなかった。仕方ないので自分で調べることにした。

 それでわかったことは、守護霊は普通の人には見えないということだけだった。

 さすがに人を斬るわけにはいかない。

 守護霊の力に謎を残しながら今宵も校内の見回りを始めた。



 暫く廊下を歩いていると中庭に人影を見つけた。月明かりに照らされその人影の顔が見えた。京だ。

「懲りないなあいつも」

 今いる二階の窓を開けそこから中庭へと飛び込んだ。



 そして今は刀を振り回し、京を追い詰めている。京はギリギリのところで避けているがずっとは続かないだろう。

 燿堂は一太刀に力を入れる。

 すると力が血液のように流れ、構えた峰の部分が赤く染まり、そのまま京の足をかすった。

「今のは…もしかしてこれがこの刀の力」

 今までにない感覚に戸惑う燿堂だったが、京はチャンスだと思い、背中を見せた。

「お前と戦ってたら俺の命がいくらあっても足りねーよ」

 スタコラとかすった足を気にしながら走って行った。が、その足は急に止まった。燿堂の攻撃によるダメージはない。しかし守護霊の能力が打ち込まれていた。

「どうやら効いてきたみたいだね。僕の闘気の守護霊、エンゲージメントが」

 京の腹の底からから闘いたい、という気持ちがこみ上げくる。それは京の逃げる足を止め、ついに燿堂と向き合い自分の守護霊を発現させていた。

「くそ!逆らえない。やるしかないのか」

 歯車を投げつけるが、燿堂の華麗な刀さばきで弾かれる。それからまだ慣れずに、一つずつしか出せない歯車を投げ続ける。

「京!落ち着くんだ。奴の刀をよく見てみろ」

 レックの声で少し気を取り直した京はアドバイス通りに燿堂が持つ刀を見た。

 峰、つまり刃ではない部分には京を苦しめている闘気が流れている。が、刃こぼれ一つないその刃には闘気が流れておらず代わりに青い何かが流れていた。

「ラッキーだね。彼もまだ守護霊を使いこなせていないようだ」

 燿堂の一太刀をかわし、レックの話を聞くために木の裏側へと隠れた。

「俺に勝てる要素があるのか?」

 燿堂と同じで守護霊を完全には使えていないし、今も闘気の影響が収まらない。

「いや、ない。だが逃げることはできるぜ。その回転の力を利用してあの青い気に当たるんだ。あれは闘気と真逆の力を感じる。その闘いたいという衝動も収まるだろ」

 青い気。つまりあの刃に当たればいいのか。成る程なるほど。

「って、俺に死ねってか!」

「大丈夫だ。かする程度でいいんだ。今のままじゃあ、勝算もないし敵にしたくない。あの刀を回転させろ」

「自分から刃に当たりにいくなんて狂ってるな」

「いつの時代も狂者が世界を変えた。お前も

世界を変えるために、狂いながら戦え」

 その言葉にため息をつき無言でうなずき、急に前転をした。京が座っていた場所は刀が突き刺した。

「いくら隠れても気からは逃れられないよ。さあ、闘いの続きをしよう」

 京は歯車を出しタイミングを図る。流れるような胴への峰打ち。神経を集中した京には、はっきりみえた。

 歯車を当て、その回転で刀も回転して刃が京の胴へと吸い込まれるように流れた。

 何とか、かすった程度で済んだが血は出てしまった。

「な、一体何を…」

 燿堂は見ると思っていなかった血を眺めながら驚きの顔をした。

「これで燿の呪縛は解けた」

 京は腹を手で押さえながら、今までずっと隠れていた千冬を連れて逃げて行った。それを見つめながら燿堂は自分の刀をしまい、学校の闇へと歩いて行った。



「はぁはぁ、くそ。やっぱ痛えな」

 出血は手で押さえられないほど悪化していた。

「ちょっと、ひどい出血じゃない」

 千冬は出血している腹に手を当てる。

「千冬、いてて!」

「黙ってて」

 千冬が目をつぶると緑色の装飾をしたヒトデが幾つも現れ、京の傷に集まった。そして眩いほどの緑色の光が放ち、離れて行った。

 京は腹に手を当ててみる。

 血が止まっていた。それだけではない。傷口も跡形もなく消えていた。

「こ、これは?」

 目を丸くしながら手が震える。

「キュアフィンガー。これが私の守護霊よ」

 千冬はまっすぐな目で京を見つめた。

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