踊りだした歯車
才牙がタトナスを倒してから三十年が過ぎた。
今は表向きは平和だった。
というのもある奇怪な事件が起こっていてそれが一般の人には気づかれてはいないからだ。
その事件というのはまるでゾンビのように干からびて死んでいるという事件で死んだものは全員、守護霊をもっていた神候補だった。
そんなことを知らない二年G組の学生たちは今日も賑やかだった。その賑わいの中心にいるのは加賀村 京。
そんな彼はみんなから好かれている。今も教卓の上でブレイクダンスを踊ってクラスを盛り上げている。
なぜ踊っているかはわからない。昨日テレビでやっていたかもしれない。
気まぐれ。
彼はそれで動いているのなもしれない。そんな彼を中心として運命の歯車が動きだしていた。
「なあ、例の木のところに行こうぜ」
橋見 紘一の目の前に来たのは、京。毛先が跳ねていて、特に頭のてっぺんの髪の毛はアンテナみたいになっている。
そして例の木というのは一週間前に理事長が直接取り寄せたという珍しい木で連休のうちに中庭へ植えたものだ。
「ああ、あの噂の木か?」
そうあこ木にはある噂がある。夜に木からうめき声が聞こえるという噂が。
「そうだ。本当かどうか確かめに行こうぜ」
この場合、紘一が拒否しても京は強引にあの木のところへ連れて行くだろう。彼はそういう男だ。
どちらにしろ、紘一は中庭の木の噂を確かめに行くしかなかった。
この学校こ中庭は鑑賞用のため、入ると先生に注意されてしまう。しかも日がある時は窓からすぐにばれてしまうので、夜に確かめることした。
二人は校門で待ち合わせをして、塀を乗り越え、校内へ入り誰もいないことを確認して中庭へと侵入した。
そこは何か変だった。妙な違和感があるのだ。
「なあ、京。やっぱ…」
やっぱり辞めよう。そう言おうとしたが、京は既に例の木に近づいて手で触れていた。
「呼んだのはお前か」
「おい何言ってんだよ?ここは俺ら二人しかいないんだぜ。誰も呼んでね〜よ」
紘一は一刻もここを去りたかった。
だがそれは決して暗いのが怖いとか、教師に見つかるかもという不安からではない。この違和感からだ。
しかし、京は紘一の声など聞こえなかったように木を調べ始めた。ベタベタ触りだしたり、上を見上げて何かないかと探したが何もなかった。
だがそれだけでは諦めず、木の根元部分を掘り始めた。爪の間に土が入るのを気にせず掘り続けるとガッという鈍い音がした。
「これだ。これが俺を呼んだんだ」
土の中から出て来たのは不気味な赤い仮面だった。その仮面は中央に小さな穴が空いていてそれを中心に螺旋状の線が外側に広がってまるで髪のように後頭部まで伸び、先が尖っている。どこも壊れていないのが不思議なほどだ。
「何だよこれ?これがお前を呼んだってか。冗談もそこまでにしておけよ」
「冗談ではないぞ餓鬼」
それは拒否しようとの声ではなかった。とても低くて地獄から響いて来るような声。その声は仮面の小さな穴から発せられていた。
「しゃ、しゃべりやがった。この仮面、今しゃべったぞ」
驚きのあまり尻もちをついてしまう紘一だったが京はなぜか冷静だった。
「そう怖がるんじゃあない。俺が悪いみて〜だろ。安心しろお前をとって食おうなんて考えねーから。むしろ俺はお前たちを助けるためにここに来たんだ」
「そんなこと信じられるか!」
「ん〜。見た目が駄目なのか?ならこうしよう」
仮面はウニウニと形を変えて小さくなっていき、最終的には指輪となった。といつても宝石はなく、その代わりに小さくなった仮面がついている。
「これなら持ち運びに便利だし怖くはないだろう」
「確かに…。って、そういう問題じゃねーよ!京もなんか言えよ」
「まあまあ、落ち着け。これは俺が面倒みるから、こいつの話は後日聞くとしようぜ」
京は何の躊躇もなくその指輪をはめた。
「いやいや。そいつの話なんて聞くだけ無駄だぞ。嘘に決まってる」
「まあ、信じないのも無理はないか…。ならあれで試してやろう。今からお前たちを救ってやろう」
指輪になっても、声や態度は変わらないようだ。
「は?救うって、俺たち何も困ってないけど」
「君たちここで何してるんだい」
聞き覚えのある声だった。京は指輪を見ていた顔をあげるとそこには“風紀”と書かれた腕章をつけた男子生徒が立っていた。
彼は風紀委員長の相馬 燿堂。京の次に学校で有名な生徒だ。理由は見た目という点もあるが、性格が一番だろう。悪を許さず正義を愛する。街の不良を何人倒したのかわからない。それ以外は静かで普通な生徒だ。
「燿じゃん。こんなところで何してんの?」
京はあどけない感じで気軽に話す。というのも彼と燿堂は小学生からの付き合いだからだ。
「校舎の見回りだ。最近、妙な噂が立ってお前みたいに肝試しで来る輩が多いからな」
「やばいな。このままだと反省文書けとか言われるぞ」
「それを助けてやるって言ってるじゃないか。京といったかお前。手の平に力を集中させてみな」
「わかった」
京は言われるがままにすると、手の平から小さな歯車が現れた。
「何だこれ?」
出した本人ですら驚いた。
「これは気霊という種類の守護霊だ」
「守護霊?」
「そうだ。詳しいことは後で話すが、お前を守ってくれる。試しにあの男に投げみな。な〜に心配はするな。死にはしないさ」
京は戸惑いながらもその歯車を燿堂へと投げた。クルクルと回転しながら飛んで行き、京と燿堂との間の真ん中で止まり、さらに回転数が増した。
すると京と紘一の目の前には窓があった。開いているので京が入ってきた場所だ。
しかし京たちは今まであの木に立っていし、ここには燿堂が立っていた。不思議に思い、木の方に目をやるとそこには燿堂が立っていた。
入れ替わっている。今まで立っていた場所が入れ替わっているのだ。
「これがお前の守護霊、空間をも回転させる歯車マッドネス。狂気の守護霊だ覚えておけよ」
「今のうちだ行くぞ京」
二人としゃべる元仮面の指輪は窓をくぐって中庭を抜け出して学校の外へと逃げた。
この時より歯車は狂い始め、残酷な運命を変えようと必死に踊り出した。




