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神と仮面のスピリチュアル   作者: 和銅修一
白き食王
29/52

白い獣

「話には聞いていたが、本当に仮面を被った守護霊がいるとはな」

 会議が終了して才牙たちは卵が保管されているアレスに監獄塔へと案内されている。レンガでできていて薄暗い中、アレスは珍しそうに才牙の顔を覗き込む。

「あまり見ないでくださいよアレスさん。恥ずかしいじゃないですか」

 恥ずかしいというのは嘘である。実際は胸の谷間がチラリと見えてしまったからで才牙は目をそらした。

「何だ可愛い奴だな。からかいがいがありそうだ」

「良かったな才牙。アレスはお前が気に入ったそうだ」

 ヘラクレスが横で並走しながはそんな呑気なことを言ったている。

「でも本当に今から卵を壊しに行くんですか?守護霊もさっき出したばっかで能力もわからないし…」

 ちなみにその守護霊はうさぎの様な耳を持っているのでラビットと命名した。

「大丈夫です。才牙様なら何とかなります」

「ありがとうミスラ」



 そんなこんなで厳重な扉。アレスが腰につけていた鍵で開けて中に入る。途端にピリピリとした気配を感じた。目を凝らして奥の方をみてみるとその気配の正体が見えた。

 丸くて気味が悪い緑色の殻。才牙は気になって新しい守護霊、ラビットを出してすり足で近づく。

 アレスは内側から鍵をかけ、もしもの事態に備える。そしてもしもの事態が起こる。

 卵がいきなり動き出したのだ。まるで産まれる直前のひな鳥の様に。殻はひび割れ、ついに中から赤ん坊が出てきた。

 その赤ん坊は肌の色以外は緑色に染まっていて自分と同じほどの大きさの白い仮面を持っていた。

「あ、あれが例の赤ん坊か…」

 才牙は緊張に耐えきれず声を出す。しかし赤ん坊は気づくことなく仮面に夢中だ。まだ産まれたばかりで何にでも興味があるのだろう。叩いたり、噛んだりしている。ここだけ見ているとただの赤ん坊だったのだが、仮面を顔にあてた時、急変した。

 まるで仮面と同化するように、合体というより融合するように、体の形を変えて行った。

表面は謎の白い塊で囲まれて二倍、三倍と大きくなっていき、二メートルほどの大きさになったところで成長が止まる。牙と爪が生え、ラビットと同じように全体的に白く、黒い線で何かの模様が描かれている。

 これではまるで化け物。怪物。獣。

 ウルウルと低く唸り、まっすぐ標的を見つけたように才牙を睨みつける。

 赤ん坊、いや白い獣は才牙へと飛びかかったが、ヒラリとかわされる。才牙たちは全員散開して次の攻撃を警戒する。

「才牙。とりあえず相手を弱らせて戦え」

 背中にいるアレスに言われた通りに才牙はラビットで攻撃をする。しかし当てはしない。牽制けんせいをして相手を動かすだけ。

 ラビットは思いのほか扱いやすく以前より早く動いて正確にできるが、その代わりに一発一発の威力が低くなっていた。

 白い獣はラビットの攻撃にひるむことなく噛み付いてくる。

 それを必死によけ続けているとあの厳重で硬質な扉に前まで追い詰められてしまった。扉はアレスが鍵をかけてしまった為、どうやっても開かない。

 しかし、今は才牙一人だけではない。白い獣は噛み付こうと才牙に飛び込んだ瞬間に横に吹き飛んだ。

 吹き飛ばしたのはヘラクレスの空間を操る守護霊ゴールデン・スペース。見えない球体の空間を飛ばして攻撃したのだ。

「一旦退却だ」

 いつの間にかアレスが扉を開けていた。すかさず才牙たちはこの部屋の外へ出た。だが白い獣はゴールデン・スペースが放った空間から抜け出し逃げ遅れたミスラに襲いかかる。

 が、それはアレスが振るった剣で防がれ真っ二つとなる。

 しかし驚いたことに白い獣は上半身と下半身がそれぞれ動き出しくっつこうとお互いに手と足を使い歩み寄る。

「やはりダメか。行くぞ」

 アレスの声でミスラは立ち上がり部屋をあとにした。



「すいません。何のお役にも立てず…」

「なあに、そう気を落とさなくていい。今回はまだ守護霊が扱え慣れていなかったし、その本質もわかってない状況だったからな」

 アレスは一生懸命フォローするが才牙は自分を推薦すいせんしてくれたヘラクレスに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「その守護霊の本質のことなんですが、ちょっといいですか?」

「何だ言ってみろ」

 アレスは興味心身にミスラの声に耳を傾ける。

「最初から気になっていたんですがあの赤ん坊の仮面と才牙様の仮面は同じなのではないでしょうか?その証拠に黒い線の模様が一致しています」

 あまり模様のことは気にしていなかったがそれに気づくミスラは対したものだと才牙は感心した。

「ではあの赤ん坊と能力が一緒というわけか。だが肝心の相手の能力をわからないから意味がないんじゃないか?」

 誰かに踏まれないようにヘラクレスが自分の守護霊の肩に乗りながら真面目に言ってるのだが、傍から見ると守護霊が本体に見えてしまうのでやめて欲しい。

「それについては確信がないのですが、私の予想ですと霊気を食べているんじゃないでしょうか」

「霊気を食べる?一体なんだそれ」

 全員不思議そうに首を傾げる。

「はい。私が逃げ遅れた時に見たんでけどヘラクレス様の空間攻撃から抜け出す際に口を大きく開けて何かを食べている素振そぶりをしていました。ゴールデン・スペースの空間攻撃も霊気を食べられ、ただ何の変哲もなく攻撃力ゼロの空間にされてしまったんじゃないでしょか?」

「なるほど。で、それを確かめる方法はあるのか」

「あります。人間界に」

 自信たっぷりのその顔に才牙は全てを託した。

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