黄金のカブトムシ
救世主。みなさんはこの言葉を聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか。
諒のイメージでは長身の金髪男で腰に剣を携えている感じなのだが目の前にいる救世主は人の姿をしていない。
夏に現れるカブトムシ。そんな彼?が手紙でやり取りしていたヘラクレスなのだ。というかカブトムシなのに手紙は書けたのか? いや今はそんなことはどうでもいい。問題は彼があの強敵グロウ・グリーンに勝ているか否かである。
「あなたがあのヘラクレスさんですか?」
一応確認をとっておく。
「そうだ。まあ、疑うのも無理はない。この姿は転生してなったものだ。元は同じだから気にしなくていい」
「転生って人間になれるんじゃないんですか?」
「転生にも種類はある。絶対に人間の姿に転生できるとは限らない。覚えておくといい」
ちなみに転生にも神となるのと同様に条件があるらしいがそれは教えてはくれなかった。
「それにしても随分苦戦しているようだな」
ヘラクレスは街の様子を見渡す。空にはグロウ・グリーンから産まれた大きな蝉が飛び回り、人払いの鈴を使ったので人はいない。
まるで虫に支配されてしまった感じに見える。
「でもどうしてここに?」
「いや、それが理という男にここまで来てくれと案内されてな」
「理が?」
あの引きこもりが外に出るとは牧田は一体何をしたのだろうか。そして今ここに理がいないところをみるに案内した後、すぐに理科室へと帰っていたのだろう。おかげでヘラクレスが助けに来てくれた。
諒は霊力を吸い取られ動けないし、三雲の守護霊は実質的には攻撃力がないのでヘラクレスに頼る他ない。
「それじゃあ、ぼちぼち始めるかの」
ヘラクレスがそう呟くとそれに応えるように守護霊が現れた。線がその人型の身体中を覆い、鎧のようになっておりその胸には大きな水晶が埋め込まれている。そして何より色が黄金色で統一されているのが目立つ。
「教えてあげよう。これが我の守護霊、ゴールデン・スペース」
グロウ・グリーンは尻尾を振るい、諒の時のようにゴールデン・スペースの霊力を吸い取らろうと試みたがそれは届かなかった。いや届かなかったというより、何かに阻まれている。
尻尾が何もないところで止まってしまうのだ。押しても引いてもびくともしない。
「あまり引っ張らない方がいい、尻尾が引きちぎれてしまうぞ」
ヘラクレスの忠告を無視してグロウ・グリーンは尻尾を思いっきり引っ張った。直後、肉が引きちぎれる生々しい音がして尻尾がなくなった。
痛さにしばらく悶えるとグロウ・グリーンはヘラクレスとゴールデン・スペースへと突っ込んだ。しかし、その歩みはゆっくりと止まってしまう。
なぜなら気づいてしまったからだ。自分の腹に大穴が空いていることに。
「ゴールデン・スペースは空間を自在に操れる。そこの空間は止めておいたから危ないぞ…と教えてやろうと思ったがもう遅いか」
グロウ・グリーンは静かに倒れた。
今まで大量に産み出された蝉は姿を消し、元の街の様子に戻った。これで一件落着。ではない。
結局のところ花子さんを食べられ、さらにヘラクレスさんに助けてもらう始末。力不足を実感する。
「そうだ。これは君たちが持っておいた方がいいんじゃないのかい」
六本の手?で渡されたのは小さな青い鉱石。
「それは君たちの仲間だった花子さんの霊力。まだ完全には取り込まれていなかっけれども元に戻すことはできない」
「ありがとうございます」
代表して動けるようになった諒が受けとる。
「では失礼する」
ヘラクレスは忙しそうに空へと飛び去った。
人払いの鈴の回収は三雲とルキノに任せて春芽たちの救出してから学校へ送って行った。学校の保健室にはロキ戦の後に治してくれたアスクレーピオスという医神だから安心だ。
「今日は疲れたな」
霊力を吸い取られたからなのか急な疲れと眠気に襲われた。




