トイレの花子さん
諒はトイレの前で頭を抱えていた。今この扉の向こうにあの花子さんがいるのだ。しかも成り行きで悩みを聞くことになってしまったのだ。
はっきり言って悩みなんて解決できそうにないし、一体何年前の話だよ。そういえば以前、牧田がここは昔、小学校だと言っていた。トイレの場所が男女逆になっていてもおかしくはないだろう。
「実は私怖いんです」
まだ考えがまとまらない中花子さんの話は始まった。
「怖い?何が」
諒はとにかく話をちゃんと聞こうと言葉を返す。
「ここから出るのがです。気づいてると思いますけど私死んでるんですけど」
「何で俺が気づいてるとわかったんだ」
「私、霊感が強くてそういう人かどうかを見極められるんです」
「それって守護霊もわかるのか?」
「はい。どんなタイプなのかもわかります。でもあなたのは少し特殊でわかりません」
「そうか。俺の守護霊は謎か多いからな。それより話の続きを聞かせてくれ」
「あ、すいません。そうですね、私は死ぬ前はいじめを受けていました。ここはその時期に泣いてた場所なんです」
「いじめ?まさかそれで自殺を?」
「いいえ違います。私は死ぬのが怖かったから」
「じゃあ、なんで死んだんだ」
「それは学校で火事が起こったからです。私はいつもの通りこのトイレで泣いていました。そしたらいつの間にか火に囲まれて私は逃げることができずそのまま…」
そこからの続きは言われなくともわかった。
「結局何が怖いんだ?いじめか?火か?」
「死です。私は死ぬのが、いえ今となっては消えてしまうのが怖いです。また誰にも気づかれないまま消えるのが。だからここからは出られないんです」
「地縛霊か。でもそのままでいいのか?お前は死んでからも逃げているんじゃないのか」
「逃げている。私が?」
「だってそこにいたって何も変わらない。消えることはなくても結局は誰にも気づかれない。本当に怖いのは人と触れ合うことじゃないのか」
確信をつかれた花子さんはハッと思う。
「で、でもここから出ようと思っても足が…」
「そうか。なら」
花子さんの目の前に土煙があがる。
「俺がおぶってやる。俺が気づいてやる。心まで死ぬんじゃねーよ!」
そっと出した諒の手を冷たい霊の手が、嬉し泣きをしている花子さんの手が掴んだ。これでもう過去に囚われた地縛霊ではなく、自由に彷徨う霊となった。
オカルト研究部に着くとみんな驚いた。何せトイレにいっていたと思ったら、黒髪のおかっぱ幼女を連れて戻ってきたのだから。
なんか初めは女性陣には白い目で見られたが、事情を説明して何とか誤解を解いた。
「花子さんはこれからどうするの?」
牧田はかなり食いついてくる。
「いえ、特に行く当てもありません」
それを聞くと牧田は満面の笑みで目を光らせる。
「じゃあ、この部室を使いなよ。ここは君が見えるものしかこない。ただ宿代として少し働いてもらうけどね」
「そんなことしなくても俺の部屋貸すけど…」
諒は花子さんを気遣って言ったのだが、牧田とルキナの二人にすごい勢いで睨まれた。
「大丈夫ですよ。諒さんに迷惑をかけるわけにはいけませんのでここを使わせてもらいます」
にっこり笑う花子さんはもう心配ないだろう。花子さんが一人一人に挨拶していく中、牧田が机の下で小さくガッツポーズをしたのを諒は見逃さなかった。




