3話 開店
「ポーションが品薄なんだよね。」
きっかけはその一言だった。
帝都での精霊の集う店の開店から1週間が経ち、俺達はようやく自分達のペースで仕事を行えるようになっていた。
そんな時、たまたま俺が店番している時にリムの街を拠点に活動していたはずのウィプスが店を訪れた。
「いらっしゃい…ってどうしてお前がここにいるんだ!?お前リムの街で活動しているはずじゃ…」
「いやぁお前の店がないならリムの街にいても意味ないかなと思ってね。」
笑いながらそう答えてはいたが、冒険者が活動拠点を変えるのは意外と容易ではない。
なぜなら新しい土地での宿の確保や狩場の確保、魔物の情報を集めたりなどしなければいけないことは多い。
だからこそ、こうも易易と来るとは思っていなかった。
「まぁ今日は武器や防具の話で来たわけじゃないんだ。以前薬屋に努めてたって言ってたじゃない?」
「ああ。」
何となくこのあとの展開は予想できた。
多分よっぽど察しの悪い者でもわかるのではないだろうか?
「君の調合師としての実力を見込んで頼みがあるんだ。」
どうせまた俺が忙しくなるような話だろうと思いながらも、俺はウィプスに話の続きを促した。
そして冒頭の一言が飛び出た。
「最近どうもポーションを軍が買い占めているみたいなんだ。」
「どういうことだ?戦争の話なんて聞かないけどな。」
「俺にも詳しくは分からないんだけど、量も異常なんだ。」
「と、言うと?」
「薬屋は1日分のポーションなんかの回復薬を生産するとその8割を軍が買い取るそうだ。適正価格で買うから薬屋から文句は出てないが、俺たち冒険者にはたまったものじゃない。おまけにそんな日が2週間帝国内の全ての街で行われているらしい。」
「確かに異常だな。」
1日に薬屋が生産する各種ポーションの量は店の規模にもよるが100~500本の間だそうだ。
そして、1軒辺りの平均生産数は150本ほどで、帝国内にある薬屋はおよそ300軒と言われている。
150本の8割は120本で、それが300軒あるということは軍は1日に36000本ものポーションを購入していることになる。
無論この中には体力回復用のポーションだけではなく、MP回復用などのポーションも含まれるため、実際1日に集めることができている体力回復用のポーションは30000本ほどだと思われる。
それを2週間となれば単純計算42万本を集めていることになるのだ。
軍は今100万もの兵士を抱えているとされている。
それに対して42万本なら少ないと思うだろうが、元々軍が持っている備蓄もある上に、軍は魔術師の比率が高く、自分達で回復魔法を使えるため、本来100万の軍勢で攻めたとしても1回の戦闘につき1万本のポーションがあれば回復は充分事足りるとされている。
そう考えてみると42万本という数字はかなり異様な数字だ。
まして、防衛にも兵力を割かなければいけないので、全軍をどこかに進軍させるわけにはいかないだろう。
実際動員できる兵力は20万人ほどではないだろうか?
その人数に対して42万本ものポーションを用意するのは異様だ。
人数に対しての過剰なまでの回復薬の量。
もはやダメージを受けることを前提として行動する全兵士にあらかじめポーションを配っておくつもりのような準備の仕方を見て、俺は1つの可能性にたどり着いた。
それは本来口に出すのもためらわれるような内容だった。
「ひょっとしたら魔窟に手を出すつもりなんじゃないか?」
魔窟という単語が出た瞬間、店内の空気が凍りついたように冷たくなり、ひと時の間静寂が訪れた。
「おいおい、いくらなんでもそれはまずいだろ。」
「でもさ、人魔大戦の頃だって、それ以外の大きな戦闘の時だって軍が動員できる人員全員にポーションを配ったことなんてあったか?魔窟侵攻以外で?」
俺の一言にウィプスはもはや何も言えないようで、しばし黙り込み俺の意見について考えているようだ。
「確かにそうだな。かつて魔窟に進行したときは10万の兵士に15万のポーションを持たせて攻撃を行ったらしいし、それ以外でポーションの数が人数を上回ったなんて聞いたことがない。でも……だからこそそれでも失敗した魔窟侵攻を今更行うか?」
そう、それが問題だった。
実は以前の魔窟侵攻は魔窟に生息する強い魔物から得られる素材と、魔窟の中でしか見つかっていないレアな鉱石や植物などのアイテムを収集し、軍の装備を強化することが目的で行われた。
しかし、結果として魔窟侵攻は失敗しそれどことか怒って出てきた強力な魔物たちに周りの土地を蹂躙されることとなった。
結果として魔窟に進行した10万もの兵士のうち9万あまりが犠牲になり、生き残った者も体に傷を負った者がほとんどで、兵士として復帰することは絶望的となってしまった。
また、周囲に出てきた魔物により約2万人の兵士も犠牲になることとなった。
これは帝国史上最大の損害と言われ、以来魔窟周辺への立ち入りは著しく制限されることとなった。
また、この魔窟の問題は帝国内にとどまらなかった。
元々人間の国との国境に近かったこの魔窟は帝国の侵攻失敗のあと出てきた魔物の一部が人間の国に向かったため大きな問題となったのだ。
魔窟に一番近かった人間の国は何の準備も出来ていなかったため滅亡し、その周りの国々もほぼ壊滅状態まで陥ってようやく魔窟から出現した魔物たちを倒すことができたようだ。
そして、これが後に人魔大戦の火種の1つとなった。
だからこそ、この問題は触れること自体タブーとされてきた。
それゆえ、また魔窟に侵攻するなど考えたくもなかった。
「だろ?魔窟に侵攻するっていうのが結局一番しっくりくると思う。」
「その予想が外れてくれることを祈るよ。話は戻るけどさ、少しでいいからポーション作ってくれないか?材料はこっちで用意するし、報酬も支払うからさ。
「いいけどどれくらいの量を作ればいいんだ?」
「一日にポーション10本とマジックポーション3本ほどかな。」
ポーションは一般的な回復用のポーションのことで、マジックポーションはMPの回復を行えるポーションのことだ。
「本数は全く問題ないけどマジックポーションはそこまで作れるかわからないぞ?材料しだいになるだろうし…」
「そうなのか。簡単に作れるものだと思ってたよ。」
「マジックポーションは効果によって必要になる素材が変わるんだよ。多分ウィプスくらいの冒険者になると一番簡単に手に入る素材を使っても効果が期待できないだろうな。でも高いのになると薬屋が買い占めてるかもしれないし…」
「えぇ…じゃあとりあえずポーション10本だけお願いするよ。」
「分かった。」
ポーションの件がまとまるとウィプスは帰っていった。
その日は頭から軍のポーション買い占めのことが頭から離れず、なかなか作業に集中できなかった。
名前:デューイ
種族:ドワーフ
契約精霊:火(下位) 水(下位) 土(下位) 雷(下位) 風(下位)
職業:遊人Lv2 鍛冶師Lv37 上級調合士Lv7 狩人Lv5 釣り人Lv1 商売人Lv9 錬金術師Lv8
ユニークスキル:鍛冶Lv37 鎚Lv3 酒豪
スキル:調合Lv7 水泳Lv1 槍Lv1 釣りLv1 話術Lv14 取引Lv9 錬金術Lv8
装備:作業服
名前:シャーリー
種族:獣人(兎)
職業:戦士Lv1 商人Lv4
種族固有スキル:身体強化Lv1 聴覚強化
スキル:話術Lv3 暗算Lv4 取引Lv4
装備:麻の服(防御+1)
名前:サーシャ
種族:エルフ
契約精霊:風(上位)
職業:狩人Lv3 鍛冶見習いLv15
ユニークスキル:弓Lv3 身体強化Lv1 異種族言語|(精霊)
スキル:鍛冶Lv15
装備:作業服
名前:リリ
種族:魔人
契約精霊:
職業:魔術士Lv3 鍛冶見習いLv15 錬金術師Lv3
ユニークスキル:魔術Lv3
スキル:錬金術Lv3 鍛冶Lv15
装備:作業服
変な表現、間違い等ありましたら教えてください。




