やさぐれ王女、お願いする。
自分の思いつきの段取りで頭が一杯になったアリシアは、さっさと朝食の続きを済ませると、
「部屋に紙とペンを用意してくれ」
と席を立った。
「そんなもの、どうするんだ?」
「決まってる。各国宛の手紙を書くんだ」
どうやらアリシアは本気らしい。
「貴公が力を使えば早いのかもしれんが、そうすると、大魔王と知れてしまうからな。地道に人のやり方でさせてもらう。それと、ゼクストンに協力させるに当たって、一度城に戻らねばならないのだが....」
一気にまくし立てていたアリシアが口ごもったので、シュバルツは、つい、
「どうした?」
と先を促してしまった。
「...ついて来てはくれないだろうか?」
アリシアは、恐る恐るシュバルツの顔色を伺った。これまでの大胆な振るまいからは一転、殊勝な頼み方である。
「何故?」
「...いや、一応、家出中の身だし。それに、貴公がいないと、すぐには信じてもらえそうにないかと」
上目遣いでシュバルツを見上げるアリシアは、幾分心細げで。
「時間短縮の意味でも...、ダメ、か?」
傾げた頬にさらさらと、緩く波打つ金の髪が流れ落ちる。
シュバルツは何やらいたたまれなさそうに、
「...わかった。取り敢えず、紙とペン、だな。サラザール!」
と配下に指示を出した。それから、アリシアに、
「城に戻るなら、さっさと支度してこい」
と声をかけた。
「ありがとう!」
アリシアは、満面の笑みで答えると、ドレスの裾を持ち上げ、大急ぎで食堂から姿を消した。
アリシアが出ていった食堂で、
「...姫君の思い付きに付き合って差し上げるとは。随分と、興をひかれたご様子」
サラザールが、主君を揶揄するように言った。
「どうせ三月だ。その間は、好きにさせておく」
と、シュバルツは苛立ちを隠せない。
「意図してかどうかはわかりませんが、彼女の『お願い』は、強力でしたね」
サラザールは先程のアリシアの様子を思い出して、あれでは断れる男がいるだろうかと苦笑する。
男のような言葉を使い、大胆で傍若無人なところが表に出ている分、しおらしい風情は驚きだった。しかも、あの容姿である。
「...サラザール! 筆記具は?!」
サラザールは、シュバルツの苛立ちを優雅な礼で受け止める。
「仰せのままに」