やさぐれ王女、提案する。
昨夜と同じ部屋でぐっすり眠ったアリシアは、朝一番にミアに自分の支度を済ませてもらうと、城中の窓を開けて回った。
よく晴れた一日の始まり。
「いい朝だ」
今朝のアリシアには、やる気がみなぎっていた。
大魔王の凶行を防ぐためにはどうすればいいのか、答えが出たわけではない。ただ、何もせずに待つのは、アリシアの性に合わない。迷って動かずにいるのも、真っ平だった。
ここで最後と、大広間の一番大きい窓を開ける。
一陣の風が舞い上がり、アリシアの頬をなぶった。
「おはようございます、アリシア様」
またいつの間に現れたのか、背後からサラザールに声をかけられた。
「おはよう、サラザール殿」
「殿は、結構です。私はただの管理人ですから」
「では、サラザール。衣装の見立ては、お前が?」
今日のアリシアは、薄い青の絹を幾重にも重ねて深い色を出し、細かな真珠色のビーズを散りばめたドレスを着せられていた。
これが意外に動きやすく、アリシアにとっては嬉しかった。アクセサリーはなかったが、一部だけ編んで垂らした金の髪で十分だった。
「さあ、ご用意されているのは、シュバルツ様ですが」
「そうか、いい趣味だな」
いつも全身真っ黒だったシュバルツを思い返すと、意外な気がした。
すると、空から降るように、
「お誉めに預かり光栄、とでも言うと思ったか」
という声がして、アリシアの前にシュバルツが現れた。
アリシアは、シュバルツをしげしげと眺めると、
「いや、確かに黒ずくめだが、趣味はいいな。衣装が、髪や目を更に引き立てている」
と、評した。
「それにしても、その、突然降ってわくように出てくるのは、心臓に良くないな」
「...虫みたいに言うな」
シュバルツの手が拳を握っているが、
「そんなでかい虫がいたら、魔王より迷惑だろう」
アリシアは平気で言った。
シュバルツの忍耐が切れる前に、サラザールが割り込んだ。
「お出ましになったのはお食事の件でしょう? アリシア様、食堂に朝食の準備が出来ております。ご一緒されますか?」
「もちろんだとも」
サラザールは、アリシアに悪気はないはずとなんとかシュバルツを宥め、二人を食堂へと誘ったのだった。
朝食は、パンや果物にスープと、ごく普通のものが用意されていた。
大きなテーブルの対面に座り、大魔王とアリシアは食べ始めた。
アリシアは、サラザールの分は?と尋ねたのだが、管理人として別に用意しているとのことだった。
アリシアは、正面で普通に食事を取っているシュバルツの様子をじっと見ていた。
「今度は、何だ?」
シュバルツが幾分不機嫌そうに言った。
「食べるものも、同じなんだな」
アリシアが言うと、
「力が使えるのと、それに見あった寿命がある。それ以外は、たいしてヒトと変わらん」
「そうなのか。魔王とかいうから、もっとおどろおどろしているかと思った」
実際、こうしてただ一緒に食事をしているなら、どこかの国の王公にもてなされているかのようだった。
「人と変わらん....」
アリシアは、ジーニヤの言葉を思い出していた。何か大切なものでもできれば、と言っていなかったか。
「そうか!」
「さっきから、何をぶつぶつ言っている?」
「提案だ!」
アリシアは、テーブルマナーも忘れて席を立った。そして、早足でシュバルツの隣まで来て言った。
「パーティーを開くぞ!」
「は?」
憮然とするシュバルツにも、アリシアはお構い無しだった。
「大魔王では、皆尻込みして集まらんな。幸い、貴公が起きたことは誰も知らん。ゼクストンの父や兄に協力させて、新たな大公にでも封じて。御披露目も兼ねてだな」
まくし立てるアリシアに、
「ちょっと待て。一体、なんの話だ?」
シュバルツがやっと口を挟んだ。
「だから、花嫁選びの舞踏会だ」
「誰の?」
「貴公の」
「生け贄でも募るのか?」
「冗談じゃない」
いや、シュバルツには、アリシアの提案の方が冗談に思えたのだが、アリシアは大真面目である。
「ちゃんとした花嫁探しだ。いい人が見つかったら、滅ぼそうとか考えなくなるはずだからな!」