語る王女
「教皇、並びに重臣の方々」
凜としてアリシアは呼び掛けた。
「シルランドの事情も、些少ではありますが、聞き及んでいます。彼の一族との婚姻によって得た力の奇蹟で、これまで国を治めてこられたこと、その力が薄まり、色々とご苦労されていたところへ、彼の力を知り、今回のことの発端になったのではないかと、推察いたします。けれども、今、私たちは、一国のことではない危機に直面していることを、おわかりでしょうか?」
重臣たちは、アリシアの言葉に顔を見合わせた。
「では、本当に、彼は...」
教皇が言いかけて、言葉を呑んだ。
アリシアは、頷いた。
「300年前に、世界を滅ぼそうとし、一族の反対で眠りについていた伝説の魔王、その人が、不幸な事故で起きてしまったのです」
シュバルツが、アリシアに視線を飛ばしたが、無視してアリシアは続けた。
「起きてすぐの彼に、私は提案を持ちかけました。もしも、彼が、滅ぼしては惜しいものを見つけることができれば、この世界は救われます。今は、その猶予期間なのです」
「確かに、圧倒的な力を感じる..が、貴女の言っていることが本当のことだと、どうしてわかる?」
シルランドの重臣の一人が言った。
その時、教皇の被り物が頭の上で音もなく飛散した。
「信じてもらうしかないだろうな」
シュバルツが、発言した重臣を冷ややかに笑った。アリシアは、シュバルツのマントを引っ張り、余計なことはするな! と、釘を刺した。
「このように、力で、迫ることは本意ではありません。私が言うと、矛盾していると思われるかもしれませんが、シルランドも、このような人智を超えた力に頼る施政から脱却すべきです。もしも、世界が滅ぼされるのを免れたら、新たな国づくりをなさってください」
「要約すれば、自分の国のことは自分たちでなんとかしろ、ということだ。今回はこれで収めるが、私は、彼女ほど寛大ではないからな。次に仕掛けて来るようなら、容赦はしない」
今回は、利用させてもらった部分があるからなと、シュバルツは内心で呟いていた。
シルランドがキサナ山脈に送った軍も、ヤンソン皇子、セリーナ皇女共々、やがて帰国するであろうことを言い残し、シュバルツは来たときと同じように、アリシアを抱えて消えた。
残されたシルランドの面々は、やっと解けた緊張に肩の力を抜いた。
「ゼクストンは鬼門になりましたな」
と、一人が言い、一同頷いた。
「この世の命運を握っているのは、彼ではなく彼女かもしれん」
教皇は言い、
「...ヤンソンはともかく、セリーナには可哀想なことをしたかな?」
と、彼等を暖かく迎える準備をするよう、部下に命じた。そして、大きな爆弾を抱えることになったゼクストン王の辛苦を思うのだった。




