魔王の威嚇
試されたと知り、機嫌の悪いアリシアとは対照的に、シュバルツは上機嫌だった。
まずは、自分の乗って来た馬車と警護兵、アリシアを追いかけてきた兵士たちをまとめて、もといたキサナ山脈のシルランド陣中に送り返した。
兵士たちが目の前で消えたので、アリシアはシュバルツを睨んだが、当の本人は知らん顔で、力を使い放題である。送り返した兵士たちが陣に着くのと同時にヤンソン皇子他司令部に向けて、空から声を届けた。
曰く、
「その機械は何の役にも立っていない。運ぶだけ無駄だ。兵をまとめてさっさとシルランドへ帰れ」
と。ついでに封魔具を爆発させ、木っ端微塵に砕いたのだった。
「さて。元凶を絶たねばな」
シュバルツは、そう呟くと、有無を言わせずアリシアを抱えた。
岩だらけだったキサナ山脈の景色は消え、アリシアは、一見して玉座とわかる椅子がある、王の謁見室らしき広間に出た。
ゼクストンとは違う、どこか全体に丸みを帯びた様式の部屋だった。玉座には、銀髪のふくよかな初老の男が、紫に金の縫いとりをした服を着て座っていた。頭には五角形の金の帽子を被っている。
玉座近くに控えていた重臣らしき男たちも、それぞれの色や意匠は異なるが、似たような衣服に身をつつんでいた。
その部屋にいた全員の眼が、突如として現れた闖入者を見ていた。
「何者だ?!」
側仕えの一人が誰何した。同時に呆気にとられていた者たちが、身構え、玉座の主を庇う位置に動いた。
「確かに、あの皇女や皇子よりは力を感じるが...。まあ、あの程度の機械で、なんとかできると思われていたんなら、伝説も当てにはならんな」
シュバルツは言った。
それからシュバルツは抱えていたアリシアを床に下ろし、庇うように前に出た。
聞かなくともわかる。ここは、シルランドの中枢だ。目の前の玉座にいるのは、シルランド教皇。今回、ゼクストンに介入した最高責任者である。
「で? あんなものを使ってまで、来てほしかったんだろう?」
来てやったんだ、有り難く思え、と言わんばかりのシュバルツの、不遜な態度と、その奥に垣間見える圧倒的な力の気配に気圧されて、シルランドの面々は声も出ない。シュバルツは、それぞれの顔をぐるっと見回した上で、教皇に視線を定めた。
「他国を脅迫してまで、力が欲しいか? 力を得たあかつきには、どうする? 所領に飽きたらず、侵略するか? 」
人の世の争いに、うんざりしていたシュバルツだった。その世界に嫌気がさして滅ぼすつもりが、無理矢理眠らされ、そしてまた不意に起こされた。起きて、見た世界はたいして変わってはいなかったが、ただ、シュバルツの心の風向きはこの猶予期間で少し変わっていた。以前の彼なら、気に入らなければ、その場で潰していただろう。
「この国ひとつ、潰すことなど、造作もない...が、迷惑を被ったのは、こいつだからな」
と、シュバルツはアリシアを振り返った。急に矛先を向けられたアリシアだったが、お前はどうしたい? と、静かに問いかけるシュバルツの視線を正面から受け止めた。
「私は、ゼクストン王女、アリシアと申します。このような形でお目にかかること、非常に残念ですが...」
アリシアはよく通る声で話し始めた。




