言い訳は聞かない。
ブラン城にたどり着いたアリシアとシュバルツを待っていたのは、メイデンの小言の嵐だった。
メイデンの心配も余所に一人で出歩いたアリシアには、王女としての自覚はあるのかと始まり、果ては、ブラン城に来てからの服装や言葉遣いまで。
シュバルツには、王女の不在を報告してからの単独行動に対する愚痴。メイデンは、心配のあまりにたがが外れ、相手が大魔王であろうと、容赦なく捲し立てる。自分には、とにかく探せという指示のみだったことも根に持っている様子だった。
結果、王女は無事に戻ったことだし、特に要求等もなかったのでと、ようやくメイデンは、矛を納めた。王に報告する前にアリシアが戻れたのも幸いだった。
それから、二人は、レイミヤの部屋に向かった。
部屋では、レイミヤと兄のライアン王子が待っていた。
「配下の者より、聞いております。そろそろ戻られる頃かと思い、お待ちしておりました」
レイミヤは、悪びれもせず、むしろ毅然とした態度で二人を迎え入れた。
「自分のしたことは、わかっております。どうぞ、ご存分になさってください」
開き直りのように見える妹の言葉に、
「すべて僕のためにしたことなんだ。責任は僕にある」
ライアンは、前に出て、きっぱりと言った。
「いいえ!」
また兄を押し退けるようにレイミヤが進み出て、
「お兄さまは、何もご存知なかったのです。すべて私が、勝手にしたことです!」
と声を上げた。
「麗しき兄妹愛だな」
アリシアに背後から寄り添って、シュバルツは、皮肉に切り捨てた。アリシアは、右手を軽く上げ、シュバルツのそれ以上の言葉を遮った。
「意図はどうあれ...、姫の行いは許されることではない」
アリシアは、言った。
「即刻、荷物をまとめ、この国から出て言ってもらいたい」
赤毛の兄妹は、一瞬聞いたことがわからないというように、目をしばたかせた。
「では...」
アリシアは頷いた。
「ブラン公との縁談を前提とした滞在は、姫の不興により永久に中止、私との縁談もなかったことに、で、どうだろう?」
国同士の問題として明るみにはしないとアリシアは言っているのだった。
「汚れ仕事も嫌わないほどの気持ちがあるのなら、労力を惜しまず、兄君の施政を支えてやれ」
と、アリシアは言い添えた。
シュバルツは生ぬるいと不服そうではあるが、口出しはしなかった。
兄妹に否やの余地はなかった。すぐさま、帰国の準備をするようお付きの者達に伝えた。
部屋を出ていくアリシアを、レイミヤは腰を深く落とし頭を下げたままで見送った。
「あれで、よかったのか?」
歩きながら、シュバルツが言った。
「...いいんだ。どんな理由であれ、言い訳は聞きたくないし。この通り私は無傷で戻れたし、しつこい縁談も白紙に戻ったし」
そう並べ立て、アリシアは微笑んだ。
「貴公がいて、よかった」
生まれたての花を太陽が祝福しているかのような笑顔だった。
「ありがとう」
シュバルツは、思わず足を止め言葉をなくした。
「アリシア様」
タイミング良くサラザールが声を掛けて来た。
「お食事の用意が出来ております。食堂へ、どうぞ」
「ここの管理人は、よく出来ているな。ちょうどお腹がぺこぺこだ」
そう言ってアリシアは、昼食ぬきで半日以上縛られていたあげく、川の水まで浴びたにも拘らず、元気に食堂へ向かった。
そんな彼女を見送る主従は、言葉もなくそれぞれの思いを巡らせるのだった。




