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滅亡伝説、現れる。

「寝起きのシュバルツ様は、それはもう大変不機嫌でいらっしゃって」

大変、と言うわりに嬉しそうにサラザールは続ける。

「起こしたヤツを連れてこい、とおっしゃっています」


「...腑に落ちん」

アリシアは、呟いた。

「サラザールと言ったか、部下のお前が突然姿を現したりできるというのに、親玉がなんで出てこれないんだ?」

「いえ、そういう問題ではなくて...」

他人(ひと)様の城のソファに、堂々と座ったまま動こうとしないアリシアに、サラザールは、大魔王は自分とは比べ物にならない力を持つこと、出てこられないのではなく、立腹し、その原因を呼びつけているのだということを、逐一説明しなければならなかった。


「...ご理解いただけましたか、アリシア様?」

「わかった。だが、私は、城から走り通しで腹ぺこなんだ。食べてからでいいな?」

サラザールの努力も虚しく、アリシアは、簡素な食事に『いただきます』と挨拶をして食べ始めた。


「アリシア様。滅亡伝説をご存じですか?」

もぐもぐとパンを咀嚼していてさえ美しいアリシアに、腹立たし気にサラザールは語り始めた。

「300年ほど前、世界に飽いた大魔王は眠りにつきました。次に目覚めた時、やはり世界が、かの王に取って、取るに足りないものであったときは、この世を滅ぼすと言い残されて......」

大魔王シュバルツの眠りは、いわば人々にとっての執行猶予であったことを。


アリシアが、その伝説を知らなかった訳ではない。が、施政者への戒めとしての話に過ぎないと思っていたのだ。


と、その時。

「いつまで待たせる!!」

城を揺るがすほどの大音声が響いた。

黒く輝く霧が舞い上がり、気がつけば、アリシアは、荘厳な大広間に立っていた。


幽霊城の面影は、もうどこにもなかった。ゼクストンの城よりも遥かに厳めしく、けれどどこか優美な魔王の城が出現していた。


目の前の玉座には、この世のものと思えないほど美しく、圧倒的な威厳に満ちた王が座っていた。

漆黒の衣装に身を包み、マントもブーツも漆黒、さらに夜霧のような髪、吸い込まれそうに煌めく夜空の瞳。


魔王は、ゆっくりと立ち上がり、アリシアのもとへ歩を進める。魔王の動きは、きらきら輝く砂粒のような時間に彩られた。

けれど、彼の周りには怒りのオーラが立ち込めていた。アリシアの背後で、サラザールは平服して彼を迎える。


アリシアは、毅然と顔を上げていた。

折れそうになる膝を、なんとか支えながら。美しさは、恐れになる。初めて湧きあがる畏怖の感情に戸惑いながら。



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