王女の不在
シュバルツが、今日も退屈なお茶会に出向こうとしていると、セリーナの侍女が知らせを運んできた。
今日のお茶会の主催者であるレイミヤが、突然の不調で主催を辞退してきたため、急遽セリーナが行うとのことだった。そして、突然のことなので開始は、昼を過ぎる。追ってセリーナの部屋の準備が整い次第、連絡すると伝えられた。
「そこまで、熱心に続けなくともいいようなものだが...」
シュバルツは、苦笑いである。
黒猫に戻ったミアが、うまくセリーナに可愛がられており、セリーナの事情や思惑もわかっていた。
とりあえず、シュバルツは、そのまま何も知らないふりをして、セリーナとは接している。セリーナの思惑について、サラザールは主に尋ねて見たが、
「まぁ、そういうのもあるだろう」
と、至極当然のように受けとめていた。
「だが、面白くもない事情だ。考慮する余地もない」
力があれば、それに惹かれ群がるものがいる。それは、彼が眠る前となんら変わることがなかった。
昼過ぎ、メイデンが少し慌てた様子でシュバルツの元にやって来た。
シュバルツはお茶会の連絡を待つのみと、座って寛いでいた。
「アリシア様がどちらに行かれたか、ご存知でしょうか?」
扉を入ってすぐのところに控えながら、メイデンは言った。
シュバルツは、傍らのサラザールと顔を見合せた。
「アリシア様が、どうかされたのか?」
サラザールが訊くと、言いにくそうにメイデンは話した。
「今日も馬でお出掛けになられたようなのですが...お弁当を持っていかれなかった時は、必ず昼までには戻られるのです。それが...」
「まだ帰っていない?」
サラザールが確認すると、メイデンは渋々頷いた。
「アリシアは、一人か?」
軽く身を乗り出して、シュバルツが訊くと、これにもメイデンは頷いた。
「御供をといっても、気まぐれに毎日出かけられますし、こちらの城では、姫を始終見届けるような人出は割けず...」
「愚痴を言っても、始まらん」
シュバルツは、メイデンの言い訳を切って捨てると、
「とにかく、探せ」
一言で命じた。
「はっ」
かしこまって、メイデンが出ていく。
メイデンを見送ったシュバルツは、椅子の背もたれに体を預け、しばらく目を閉じた。
「...どこ、だ」
絞り出すような声と共に、しばらく使っていなかった力の波動がシュバルツの周りを取り囲み始めた。
それから、目を開けると同時に、いつしか肘掛けの上で握りしめていた拳を開き、立ち上がった。
「サラザール」
「はっ」
「猫を借りに行って来る」
そう言うと、シュバルツは、セリーナの部屋に向かった。
セリーナは、まだ準備もできていないとところへシュバルツが現れたことに驚いていた。
「ご連絡は...」
「まだなのは分かっている」
慌てて出迎えたセリーナの言葉を遮り、シュバルツは、すっと部屋の奥へ手を指し示した。
「その猫を借り受ける」
部屋のクッションの上で眠っていた黒猫は、目を覚まし、転がるようにシュバルツの足元に駆けてきた。
シュバルツは猫を抱き上げると、
「今日のお茶会は、中止だ」
と宣言した。更に、
「私抜きなら、勝手にやってもらって構わないが」
と加えて、セリーナの返事も待たず、部屋を後にした。




