やさぐれ王女、縛られる。
「ねぇ、お兄さま。いい加減、お止めになっては?」
レイミヤは、しつこくアリシアを探しては付きまとう兄に言った。
明日のお茶会は、レイミヤの部屋で行うことになっている。
近頃、アリシアは外出してしまうことが多いので、明日こそは招待すると、ライアンが息巻いているのだ。
「レイミヤ、心配しなくていいんだ。僕自ら招待に上がれば、彼女も恥ずかしがらずに来てくれる」
断言する兄の思い込みの強さに頭を抱えるレイミヤだった。
アリシアは、今日もお茶会は欠席し、ブラン山麓の森へ気ままな散策を楽しむつもりだった。
毎日のように愛馬に乗って出掛けているが、向かう先は気まぐれで、森や泉のこともあれば、ゼクストン城下の外れまで足を伸ばし、町の人々の様子を見たりすることもあった。
畑に根ざす農家の働く様子を見たりもした。
この何日かで、アリシアは、以前よりずっと国の民の暮らしを身近に感じるようになっていた。
王女が一人でふらふらと出歩くことに、侍従長メイデンはいい顔をしなかったが、新参のブラン公の城では、圧倒的に人手不足だったので、アリシアのわがままは看過されていた。
最近はアリシア付きの侍女ミアの姿がなくーーアリシアやサラザールがいうには、家の事情で宿下がりしているらしいーーアリシアは身の回りのことも、ほとんど自分でやっていた。さすがに正式なドレスだと難しいが、シュバルツが用意していた簡素な物や、乗馬服など、動きやすいものなら、一人で十分だった。
森へ出掛けたアリシアだったが、今日は何となく愛馬の様子がいつもと違っていた。
動きが、重い感じがする。
「今日は、もう戻るか?」
愛馬の首をそっと撫でながら、アリシアは呟いた。
周囲は、見通しの悪い木立の中。
立ち止まった耳に、愛馬の息づかいの他に、微かに、下生えの草を踏みしめる足音が響く。
察したアリシアは、見知らぬ追跡者を振りきろうと、馬を進めたが、上手く行かず、いつしか複数の旅装束の男達に取り囲まれていた。
アリシアは、腰の剣に手をかける。
素早く相手を見渡した。
隙は、ない。
多少の心得はあったが、多勢に無勢なのは明らかだった。
「何者だ?」
アリシアは、とりあえず誰何した。答を期待したというより、何か突破口が出来ればと思ってのことだった。
「目的は?」
どちらの問いかけにも包囲者達は答えない。代わりに、一人が進み出て、
「ご案内するよう、申しつかっております」
と丁寧に言った。
「どこに、と聞いても無駄だろうな?」
「はい、お怪我のないよう、お連れいたしたく」
アリシアは、仕方なく剣の柄から手を離した。従うしかなさそうだった。
連れて行かれたのは、麓の村。アリシアは、男達に村ばずれの農具小屋に入れられた。村人達には、予め言い含めてあったのか、道中、誰も見かけなかった。
狭い小屋の真ん中の柱に、アリシアは手を後ろに回され、縛り付けられた。
男達は余計なことは一切喋らず、動いていた。アリシアを一人、小屋に残して皆出ていった。おそらくは、小屋の周りを固めている。
「ご丁寧なことで」
もちろん、剣は取り上げられた。騒いでも聞こえる範囲に助けになる人がいない。アリシアは、訳もわからないまま舌を噛むような立場でもない。猿轡がないのは、そのためだった。
男達の身のこなし方から、単なる無法者でなく訓練された者だとわかる。
相手の出方を待つしかないーーアリシアは、息を吐いた。




