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巻き毛の黒猫

アリシアは、今日も、さてどこに行こうかと、乗馬服に着替えながら思案していた。

「アリシア様」

朝食を下げ終わったミアが、アリシアの前に進み出た。

「しばらく、姿を消します。ご不便をおかけしますが...」

姿を消すというミアの言葉に、違和感を感じたアリシアは、

「私は構わないが、他に用でも出来たのか?」

と、尋ねた。

「そうですね。私でもお役人に立てそうな御用をいいつかったもので」

ミアは、少し首を傾げてにっこりと笑った。

「なら、いいが...」

「では、しばらくのおいとまを...」

ミアは、しなやかに身を翻し、音もたてずに部屋を出ていく。その後ろ姿に、アリシアは思わず声を掛けた。

「ミア。無理は、するなよ?」

ミアは、軽く頷き、後ろ手に扉を閉めた。



リリアのもとにその猫がやって来た日、サラザールは、言った。

「姫君たちの人気者になるかもしれませんね」

艶々した巻き毛の黒猫は愛くるしく、人懐こかった。

「じゃあ、お茶会にも連れて行ってあげようかしら?」

抱き上げてリリアが言うと、黒猫は、嬉しそうにミャアと鳴いた。



濃いピンク色のリボンで飾られ、黒猫は、お茶会にデビューした。

「まあ、本当に可愛らしい!」

と、最初から、姫君たちに大人気である。

「どこから来たのかしら?」

「うちの侍従が拾って来て」

リリアは、さりげなく話を作る。

「とっても可愛らしいんですけれど、残念なことに、侍女に猫が苦手な者がいて...」

飼えないのだということをアピールする。

「じゃあ、わたくしたちでなんとかしましょうよ」

そんな声が上がり、

「名前は、何と?」

「もちろん、まだ決まってませんわ」

「では、ルーディはどうかしら?」

次々と決められていく。

ルーディと名付けられた黒猫は、撫でられていた姫君の手をすり抜け、お茶会の中心のセリーナのドレスにじゃれついた。

「まあ、セリーナ様のドレスが...」

他の姫君たちとは違う、セリーナの薄い生地を重ねたドレスの裾に両前足を絡めて、黒猫は楽しげにごろんと横になった。

「かまわないわ」

セリーナは、愛しいものを見つめるように言った。

「楽しそうですもの。したいようにさせてあげましょう」

お茶会の間、黒猫は、時折あちこちに愛嬌を振り撒いてはいたが、やはりセリーナが気に入っている様子ですぐに戻ってくるのだった。

「あら?」

そろそろお開き、という頃になって、黒猫はというと、セリーナの膝の上で丸くなって眠っていた。

「どうしましょう...」

「いいわ、このままで。しばらく寝かせてあげましょう。今夜は、わたくしの部屋で預かるわ。皆様は気になさらないで?」

セリーナが言ったので、姫君たちは安心してそれぞれの部屋へ引き上げていった。



セリーナは、眠る猫を眺め、ほうっとため息をついた。

「セリーナ様、こちらの籠にクッションを置きましたので、その猫を...」

侍女が気を効かせて声を掛けたが、セリーナは、やんわりと断った。

「いいのよ、起こしたら可愛そうだわ」

そうして、用があったら、また呼ぶからと、侍女を控えの間に下がらせた。

セリーナは、じっと猫を見つめ、起こさないよう細心の注意を払って、そうっと撫でてみる。...柔らかで、暖かい。セリーナは、知らず知らず微笑みを浮かべていた。

「...あなたは、もしかしたら、魔王の(しもべ)かしら?...そうだとしても、わたくしには、わからないけれど」

猫に聞かせるともなく、呟くセリーナ。

「わたくしは、どうあっても、あの方の花嫁になりたい...。シルランドには、もう力を伝える巫女は残っていないから...。ゼクストンの伝説を知り、あるいはと、教皇はわたくしにお命じになった。魔王の力の欠片でも、次代に残せるならと」

静かな決意を秘め、ゼクストンにやって来たセリーナは、シュバルツが影を使った時、その力の片鱗を感じとり、更に使命に添うよう心に誓ったのだった。

あまり知られていないが、シルランドは彼等――力を持つ種族の一人が人の娘と結婚して興した国だ。

代々、ヒトとは違った力を持つ巫女を排出し、その奇跡で国を治めていたが、年月を経て力が薄まっていることに国としての危機感を覚えているところだった。今はかろうじて皇族の者が力を感じられる程度である。だからこそ、教皇は、今回の縁談に一番血筋の濃いセリーナを寄越したのだ。

...黒猫は、相変わらず気持ち良さそうに眠っている。

この猫が、例え本当に魔王の使者でも、セリーナは、その決意を聞いてもらいたいと思っていた。















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