影の思惑
セリーナの提案によって、持ち回りで開かれるお茶会が続いた。
お茶会が軌道に乗れば、必ずしもアリシアが参加することもない。元々、シュバルツと姫君たちの親睦を深めるための催しなのだから。むしろ、アリシアは、いない方がいいのではと思うようになっていた。
アリシアは、最後の舞踏会に向けて、細々とした主催者側の準備を進めていた。空き時間は愛馬に乗って出掛けたりして過ごすことが増えていた。
相変わらず、ライアンの好意の押しつけがあり、かわすのに苦労することもあったが、できるだけ城にいないようにすることで、煩わしさを緩和していた。
シュバルツの方は、お茶会を無視したりせず、かかさず参加していた。彼がいないと意味がないので、当然ではあったが、文句のひとつもこぼさない。
そしてシュバルツは、何故か常にセリーナの側にいるので、花嫁候補の本命はセリーナであると囁かれ始めていた。
「いかがですか?」
城のほとんどが寝静まった夜のこと。サラザールは、主の部屋へ飲み物を届けた。シュバルツが頼んだ紅酒は、彼等の力を活性化すると言われているものだった。
「いかが、とは?」
シュバルツは、サラザールに差し出されたグラスを手に取り、一口飲んで、無表情に言った。
「セリーナ姫です」
「何か感じたのか?」
「同じような匂いがしますが...」
サラザールが気づいていることを、誰よりも能力の高いシュバルツがわからない訳がない。
「似ているが、同じ、ではないな」
と、シュバルツは、良くできる弟子に諭すように言った。
「あれは、我らとは違う」
違うが、只のヒトではない。言外に、含む言葉。シュバルツは、グラスを干して、サラザールに返した。
「目的は、なんでしょう?」
サラザールはグラスを恭しく受け取り、持っていた盆に乗せつつ聞いた。
「...さて。ゼクストンの動きに伝説が絡むと感づいて、出てきたか。それとも、ただ政略のうちか。...当初の思惑はどうあれ、あれが近くにいるときに影を使ったからな。今はおそらく、こちらの正体を察している。その上で、アリシアを牽制しながら、あれの敷いたレールをそのまま利用しようとしているからな」
シュバルツにしては、珍しく饒舌だった。お茶会という、セリーナの茶番に付き合うのにも、いい加減辟易としてきていたのだ。
「しっぽは、出ませんか?」
「なかなか、な。こちらには気取らせないようにしている」
「猫でも、使いますか?」
サラザールは、微笑とともに提案してみた。
「...そうだな」
アリシアに、もう随分永く会えていないような気がした。
実際には、食事の際などに時おり顔を合わせるのだが、セリーナが出てきてからは、挨拶以外の話をしていない。
「では、仰せのままに」
サラザールは、いつものように優雅に礼をして主の部屋を辞した。




